渡瀬裕哉(早稲田大学招聘研究員)

 トランプの大統領就任式の演説が終わりました。日本でも演説内容について評論が行われていますが、正直言って読むに耐えかねるものが多くて、ほとんどサラサラと目を通しただけの状況となっています。
米ワシントンの連邦議会議事堂で会合を終え、ミッチ・マコネル共和党上院院内総務(右から2人目)らと歩くドナルド・トランプ氏=2016年11月10日(AP)
米ワシントンの連邦議会議事堂で会合を終え、ミッチ・マコネル共和党上院院内総務(右から2人目)らと歩くドナルド・トランプ氏=2016年11月10日(AP)
 この就任演説の内容を正しく理解すること、現在の米国内部及び共和党内部での権力闘争の状況を伺い知ることができます。今回はトランプの大統領就任演説を通じて、それらの状況を概観していきたいと思います。

共和党保守派が標榜する価値観の勝利を宣言した演説


 トランプ政権の反ワシントンの姿勢は、米国における伝統的なパトリオティズムの発露に過ぎません。建国の歴史から連なる反ワシントン、反連邦政府の姿勢は米国共和党にとってはスタンダードな考え方です。

 そして、米国共和党、特に共和党保守派はこの考え方を強く支持しています。

 トランプは合衆国への忠誠、つまり自由主義と保守主義という米国の規範を規範を共有することによって、米国民は共通の理念の下に団結(分断を乗り越える)というイデオロギーを表明しました。

 これはポリティカル・コレクトネスによって人種・性別・所得・学歴などで人間を分類する思考法を持つリベラルに対する強烈なアンチテーゼを示したことになります。(リベラル派それを多様性と呼んでいます)

 民主党と共和党では何によって国民の一体性を取り戻すのか、という基本認識にズレがあり、この演説は共和党保守派が標榜する米国民を統合する価値観の勝利を宣言する演説であると捉えるべきでしょう。

 このような分析はトランプ特有のものではなくて共和党保守派は常に主張してきたことであり、同演説はトランプ政権内での共和党保守派の力の強さを示すものだと言えるでしょう。

ワシントンのリベラルなエスタブリッシュメントとの戦い


 トランプは民主党や共和党主流派などのリベラルな傾向がある人々と決定的に対立しています。これらの人々が集うワシントンは腐敗の象徴とみなされており、トランプはそれらの人々が雇うロビイストをワシントンから一掃する形で権力闘争を行っています。

 そして、今回の大統領選挙結果はメルセル財団らのドナー、ヘリテージ財団の政策、ティーパーティーらの選挙力を背景とした共和党保守派のエスタブリッシュメントへの勝利であり、その戦いに決着をつけるという決意表明が反ワシントン演説の本質です。

 つまり、現在実行中の政治闘争の方針を示していることになります。共和党内部でリベラルな主流派の排除という権力構造の変化は閣僚人事にも反映されており、今後の政策の方向性が極めて保守的なものになっていくことを示しています。

 ちなみに、日本の外交面のカウンターパートの基本は上記のエスタブリッシュメントに紐づいた人々であり、昨年の8月に共和党系でもあるにも関わらず、ヒラリー支持を打ち出して全面排除されている状況です。