元高校教師 本間一誠

BPOに告発された「はるかなる琉球王国」

 先月11月号の本欄において、9月3日にNHK総合で放送された「歴史秘話ヒストリア・はるかなる琉球王国~失われた南の島の記憶~」に触れた。その後、この番組内容が極端に偏向してゐるとして、沖縄の市民団体「住みよい那覇市をつくる会」(会長・金城テル氏)がBPO(放送倫理・番組向上機構)の「放送倫理検証委員会」への告発手続を執つたことを記しておかなければならない。この告発文は同会の支援者である江崎孝氏が、10月10日付の同氏のブログ「狼魔人日記」に掲載してをり、沖縄在住者でなければ知り得ない、本土にはなかなか伝はりにくい重要な情報を含んでゐるので、江崎氏の許可を得てここに全文を転載し、以てNHKの危険な情報操作を広く知つて頂きたいと思ふ。なほ、同会はこの事案について電波管理の管轄省庁である総務省にも通知してゐる。

 《BPO倫理検証委員会殿 平成26年10月7日 住みよい那覇市を作る会会長 金城テル

 告発趣旨

 日本放送協会(以降NHK)は、平成26年9月3日歴史秘話ヒストリア「はるかなる琉球王国~南の島の失われた記憶~」を放送した。この内容は沖縄の史実を著しく歪めたものであり、現在係争中の住民訴訟の被告側を一方的に擁護するものであること、更に政治的な意図をもって制作された事は番組に登場する識者や久米至聖廟関係者を見ても明らかであることから、BPO放送倫理検証委員会の皆様に、問題番組の録画ならびに検証資料を御精査頂き適切な指導及び処分を要望します。

 告発内容

 一、平成26年9月3日歴史秘話ヒストリア「はるかなる琉球王国~南の島の失われた記憶~」を放送したが、番組内で数度に亘り登場させた一般社団法人久米崇聖会(以降崇聖会)が所有する久米至聖廟は、那覇市の公用地(市の公園)内に憲法二十条並びに八十九条の政教分離の原則を犯して建設されたものであろう事は、取材者であれば一目瞭然であるはずである。

 二、また那覇市は、久米至聖廟の建設を平成23年から使用料の減免通知書の作成も無いまま、崇聖会に無償で土地の提供を行っていたことや、都市公園法第四条一に定める敷地面積の割合に違反していることも含め、現在係争中である。この事はNHKであれば、容易に知り得たはずである。

 三、更に、清国と朝貢貿易をしていた琉球王府についての報道の中で、度々久米三十六姓の末裔とされる崇聖会の役員を登場させる場面では、史実を著しく偏向し、反日本政府や反基地の感情に導こうとする印象操作をしたことが強く疑われる。(詳細は検証資料にて)

 四、番組作成について歴史学者として登場している琉球大学の豊見山和行教授は、共産党や福建師範大学との関係のある人物であり、大城将保氏は共産党員であることから、この番組の構成は、本年11月に予定されている沖縄県知事選挙に立候補を表明している翁長雄志氏の応援や氏の考え方を正当と印象づけるものとなっていると言っても過言ではない。(詳細は検証資料にて)

 以上、放送法違反を告発するとともに、放送した「NHK」に間違いの撤回と謝罪を求める》

止むにやまれず―NHKによる日本解体阻止

 右は告発文の全文だが、これに添付された検証資料は、江崎孝氏が自らのブログ「狼魔人日記」に載せた9月23日付「NHK反日・偏向番組を糺す!」、同24日付「NHK反日・偏向番組を糺す! 司馬遼太郎版『琉球処分』」の記述を基にしてゐるので、興味のある読者はインターネットで検索して頂きたい。

 検証資料が明らかにしてゐるのは、この番組は〈日本=悪玉、シナ=善玉といふ図式に基づく歴史観を視聴者に刷込む〉といふ意図に沿つて制作され、それに都合の悪い史実は全く切捨てられてゐるといふ事実である。検証資料から一例を挙げれば、番組では親シナ派「頑固党」の清への救援要請活動のみを英雄視して取上げ、大田朝敷ら、近代化推進の親日本派「開化党」の活動は全く無視されてゐる。また一例を挙げれば、明治四年の宮古島島民の台湾遭難事件と明治7年の台湾出兵、引続いてこの事件について清国と交渉した結果、琉球国の日本帰属が決定されたこと、この重大事がなぜかこの番組には一切出て来ない。以下、詳細は省略するが、江崎氏が右に上げた2点だけでも、史実を摘み食ひしたこの番組の偏りを衝くことができよう。

 NHKは受信料に支へられた巨大組織としての驕りから、どんなことがあつても潰れはしないと思つて来たのだらうし、今もさう思つてゐるに違ひない。東京裁判史観に呪縛された反日偏向の報道をいくら批判されても、NHKの本心はどうせまた右翼が何か言つてゐる程度の認識ではないのか。GHQによる日本弱体化政策の広報宣伝を担はされて以来、骨絡みとなつた反日の自己検閲体質はそのまま温存され、未だに占領指令に従ひ続けてゐる。背後に外国勢力の影も透けて見えるが、容易にその暗部を剔抉することができない。

 だがこの8月以来、2つの「吉田」問題による朝日新聞の凋落ぶりは、戦後の精神空間を支配してゐた第4の権力といふものが、根底の所で虚構の歴史と、それと一体の日本への嫌悪の上に成り立つてゐたといふことを、この上なく明瞭に国民の前に暴露した。時々ネットの「朝日デジタル」で「天声人語」を覗いて見るが、思はず苦笑することが多い。もう何を書いても負け犬の遠吠えにしか読めないのは自業自得と言ふべきか。朝日新聞への国民のこれまでにない広汎な批判はいづれNHKに向ふ。「住みよい那覇市をつくる会」がNHKに対して上げた声は、紛れもなくその一つの具体的な表れである。なぜ今、沖縄と本土が営々として築いてきた同胞としての歴史を殊更に歪め、相互の反目を煽るやうな番組を作るのか。なぜシナの脅威が迫りつつある今、それに目隠しをするやうな番組を作るのか。BPOがこの告発をどのやうに扱ふかは分からない。結果はともかく、止むに止まれず、NHKによる日本解体への強い危機感から行動せざるを得なかつたといふ事実が重要なのだ。

やはり! ETV特集「沖縄・島言葉の楽園」

 先月号でも述べたが、「はるかなる琉球王国」のやうな番組が制作される背景にあるのは、昨今沖縄の論壇やメディアに露はになつて来た「琉球独立論」である。沖縄県民も本土の人間も、多くはそんな馬鹿なと思ふ向きが多いだらう。しかし、これは決して一部の変人活動家が言つてゐるのではない。そこが怖いところなのだ。先日、沖縄県豊見城市在住の読者の方が、「琉球新報」の沢山の切抜きや、久米崇聖会創立百周年記念企画展「久米村~琉球と中国の架け橋」(県立博物館・美術館)のパンフレット、或いは「国立劇場おきなわ」の10月公演「史劇 首里城明け渡し」の宣伝チラシなど、目下の沖縄の状況を伝へる色々な資料を送つて下さつた。これは沖縄の現状を憂慮してのことである。すぐに電話でお礼を申上げたが、沖縄独立論や島言葉復興運動について、沖縄県民がどこまでその意味する所を深刻に受け止めてゐるのか、そこが分からない、そこが不安なのですとのことだつた。

 送られた琉球新報の切抜きの中に「道標を求めて~琉米条約百六十年主権を問う」といふ連載記事があり、西里喜行氏、與那覇潤氏、阿部浩己氏、佐藤優氏、松島泰勝氏らが書いてゐる。また「佐藤優のウチナー評論」といふ連載もあつた。ひつくるめて言へば、日本政府による琉球併合以前に琉球は独立国として英米蘭と条約を結んでゐるから、強制による琉球併合は国際法違反であり、従つて沖縄の構造的差別を解消するためには、主権と自己決定権が認められ、回復されなければならない、とする主張で共通してゐる。直ぐか徐々にかの違ひはあつても琉球の自主権拡大、連邦化、やがては独立といふ方向を目指してゐることには変りがないやうだ。

 久米島生れの作家・佐藤優氏は「ウチナー評論」でヤマトンチュに対する憎悪も露はに、「日本人の政治家の良識に期待しても無駄だ。なぜなら、その良識は身内である日本人内部にしか適用されず、外部である沖縄人には適用されないからだ。沖縄を軽く見る者に対して、我々は知恵を駆使して必ず報復する」(8月30日付)とか、スコットランドの住民投票に関連しては、「11月16日の知事選挙は、東京の中央政府に過剰同化する政治と訣別し、沖縄のアイデンティティー、自己決定権を確認する住民投票としての性格を併せ持つことになる」(9月13日付)とも述べてゐる。沖縄のメディアが毎日流し続けてゐる情報の危ふさ、凄まじさに改めて驚くばかりだ。

 10月4日、NHK総合は11時から「ETV特集 沖縄 島言葉の楽園」を放送した。簡単に結論を言つておくと、これは「はるかなる琉球王国」の続編とも言へる番組で、この中では更にはつきりと、沖縄における島言葉の復興といふ動きの取材を通して、琉球独立、もしくはそれに向けての自治権拡大の主張を強く後押してゐた。先に記したやうな、沖縄のメディアが日々発信してゐる主張をそのままなぞつたのがこの番組である。沖縄県知事選挙も近い微妙なこの時期、やはり!といふ感じだつた。今後11月16日までの間、NHKはまた何らかの暗示的なメッセージを含んだ沖縄番組を放送するのではないかと懸念せざるを得ない。ともかくこの番組を見て、改めてNHKの余りに露骨な偏向姿勢と、番組に込められた政治的メッセージに、事態はここまで来てゐるのかと慄然たる思ひになつた。

結局、琉球独立推進のプロパガンダだつた

 1時間に及ぶ番組内容の紹介は省く。番組では、国連のユネスコが沖縄方言は日本語とは別の独立した固有の「言語」であると認めてゐると語り、また今年8月、国連の人種差別撤廃委員会も日本政府に対し、沖縄人は「先住民」であるからその権利を保護し、消滅の危機に瀕する言語を守るために島言葉での教育を推進するやう勧告したと述べる。沖縄県民は本土の日本人とは異なる「先住民族」だと聞けば、大方の日本人は異様の感に打たれるだらう。だが既に平成20年、「沖縄市民情報センター」などの人権団体から報告を受けた国連の人権委員会から、日本政府は同趣旨の勧告を受けたのだが、幸ひなことに政府はそれを問題にしなかつた。

 人種差別撤廃委員会の委員には数多のNGOが資料を渡して陳情する。日本人活動家が提起して国連を巻込み、情報を世界に拡散し、その情報を殆ど鵜呑みにした国連機関の権威を以て日本政府に勧告する、といふ構図は慰安婦問題の「クマラスワミ報告」と全く同じである。今年、日本からは「人種差別撤廃NGOネットワーク」(連絡先「反差別国際運動日本委員会」理事長・武者小路公秀氏、副理事長・組坂繁之氏=部落解放同盟中央執行委員長)が同委員会に対し、国内の諸人権団体の勧告案を含む報告を取纏めたレポートを提出した。因みに理事の中には沖縄人権協会理事長・福地曠昭氏の名も見える。

 レポートの8番目の項目に「琉球民族」があり、これを作成したのは「琉球弧の先住民族会 市民外交センター」なる団体だが、その報告書を読むと一貫して大和民族から琉球民族はいかに虐げられ続けたかといふ記述になつてゐて、とにかく尋常な文章ではない。その内容は昨年5月に発足した「琉球民族独立総合研究学会」(庶務理事・松島泰勝龍谷大教授)の主張と全く同じだ。先住民としての琉球民族の意思を決定するためには、現在琉球諸島に居住する人間の「所属民族」を確定し、その上で純粋の琉球民族のみで選挙を行つて代表者を決定し、日本政府と協議するなど、殆ど唖然とするやうなことが提言されてゐる。何を以て線引きするのか。最新のDNA解析結果を以てすれば琉球民族はみんな大和民族になつてしまふ。久米三十六姓の子孫の所属民族は何か。もしかしたら移住者ヤマトンチュは最下層なのか? まるで北朝鮮の「成分」ではないか。

 現在の沖縄で奨励される島言葉復興運動も、実はこのやうな沖縄と本土を分断する、国連をも利用した国際的な謀略戦の深層から生じてゐるのであり、素朴な発想のお国言葉保存運動などとは訳が違ふことを理解しなければならない。「琉球民族」に関する報告の五番目に「琉球の歴史/文化及び言語教育」があり、このテーマに関はる問題として、琉球民族は〔a言語権の否定〕〔b独自の歴史・文化を学ぶ権利の否定〕をされてゐる状況にあることを挙げ、その「背景」を次のやうに述べる。「琉球語が消滅の危機に瀕する事となった最大の原因は、日本政府による同化政策と、第2次世界大戦中の沖縄戦における、琉球語の使用者をスパイとみなし、処刑するなどの強制と脅迫が大きく影響している」。そして「勧告案」として、・日本の教育において、大和民族以外の民族や文化に関する教科を設置し、大和民族の歴史や文化に関する教科と同時間数を配分すること。・先住民族の多く居住する地域では、当該先住民族独自の歴史、文化、言語教育の時間を作ること。

 この驚くべき内容のレポートが日本のNGOによつて国連の人種差別撤廃委員会に提出され、それがほぼそのまま日本政府に勧告される。このやうに見てくると、NHKの「沖縄 島言葉の楽園」といふ番組は、日本人を大和民族と琉球民族とに分断し、琉球独立への布石を打つための特殊な一NGOのとんでもない提言と、またそれを是認する沖縄のメディアや左翼学者が醸成する空気に忠実に沿つて作られてゐることが分かる。こんな反日番組の制作に大枚の受信料が投じられていいものだらうか。終盤に至つていよいよ番組の狙ひは明らかになる。地方自治が専門といふ琉球大教授・島袋純氏が「島言葉の日」でもある9月18日、スコットランド独立の是非を問ふ投票日の現地をルポし、沖縄のあるべき姿をスコットランドの歴史と現在に求め、沖縄の「言語」の復興を、一時は禁止されたといふゲール語の復興に重ねる。普通はこれをプロパガンダと言ふ。

 琉球独立とか自治権拡大を唱へる人はシナの脅威を言はない。チベット、ウイグル、内モンゴルがシナの民族浄化で今どうなつてゐるかを言はない。NHKもそれを言はない。言語に関して言へば「方言札」どころの話ではあるまい。国がしつかりしてゐなければ方言だつて守れまいに。

 大事なことを付け加へておく。天皇陛下は素晴らしい琉歌をお詠みになる。この一事が沖縄方言は日本語から独立した言語だとの内外学者の、言はば極めて政治的な妄言を粉砕してゐる。

報道されなかつたこと二題

 都合の悪いことは報道しない。9月28日昼から29日夜にかけ、元社会党委員長、同衆議院議長、同社民党党首、土井たか子氏の死去(9月20日)を、NHKも民放も朝から晩まで山を動かした人とか言つて讃美一色で報じた。NHKはほぼどのニュースにも「今まで60年間戦争をしなかつたのは九条があるからであり、改憲を阻止する運動を展開したいと思つてゐる」と語る土井氏の同じ映像を入れた。これだからテレビは信用できない。九条を抱へる無防備な憲法があるから人も攫はれたのだ。折しも29日は瀋陽で拉致問題の日朝協議が行はれてゐた。パチンコ疑惑とは何だつたのか。人道の欠片もないこの独裁国家と通じて、拉致問題解決より米支援を優先し、終始拉致被害者家族に冷たかつたのは一体誰か。土井氏は責任ある立場にゐた公人中の公人だ。やたら褒めればいいといふものではないだらう。

 嘗てNHKは沖縄の八重山地区での教科書採択問題については「ニュースウオッチ9」などがかなり熱心に報じた。あれは採択された育鵬社の公民教科書をNHKが問題視してゐたからだ。ところで福岡県柳川市教委幹部職員が、同市小中24校長に集団的自衛権行使容認反対の署名集めを要請した問題をNHKは報じたのだらうか。この幹部職員は反戦団体「戦争を許さない福岡県民委員会」(代表、組坂繁之氏)のネット上での呼びかけに賛同して署名集めを依頼したと報じられてゐる。市教委の組織的な関与の有無は不明なままだが、明らかに教育公務員特例法違反である。この件を最初に報じたのは、事後1カ月以上を経た8月6日付読売新聞筑後版だつた。その後続報なく、福岡県在住の年来の友人S君がこれではならじと産経新聞九州総局に働きかけ、同紙は8月29日、9月1日は「主張」で全国に報じ、やうやく広く知られるに至つた。因みにS君は福岡県の公立学校の教員として、強固な日教組支配の中で教育正常化に奮闘してきた。柳川市では中学校長を勤めたから、かの地の状況や空気は知悉してゐる。9月1日には柳川市議会において、緒方寿光市議が市長、教育部長に対し、徹底して事実関係を質し、口頭注意で済ませてゐたところを再調査するとの回答を引き出した。地方議員の行状が何かと話題になる昨今だが、かういふ使命感に満ちた人もゐて日本を支へてゐる。反戦団体や日教組の存在にも絶対に臆しない。柳川市議会のホームページを検索すれば、この時の緒方市議の粘り強い奮闘ぶりが見られる。民間団体「教育正常化推進ネットワーク」の側面からの活動もあり、10月1日の新聞各紙は関係者が懲戒や文書訓告などの処分を受けたことを報じた。この重要なニュースをNHKは報じたのだらうか。全国ニュースでは見た覚えがない。S君にNHKのローカルでは伝へたかと尋ねたが、報じたのを見たことがないと言ふ。多分2人とも見落としたのだらう。
(10月17日)

本間一誠氏  昭和20年生。東京都出身。皇學館大学文学部国文学科卒。国語科教師として鹿児島県、千葉県、三重県の高校に勤務