1995年から14年間にわたって国連合同エイズ計画(UNAIDS)の事務局長をつとめ、世界のエイズ対策を牽引してきたピーター・ピオット博士(ロンドン大学衛生熱帯医学大学院学長)が10月30日、ゲイコミュニティのHIV/エイズ啓発活動の拠点となっている東京・新宿二丁目のコミュニティセンターaktaを訪れた。
 
 ピオット博士はエボラウイルスの発見者の一人でもあることから、今回の来日ではエボラ対策面で話題になることが多かった。しかし、本人は「私が一番、重要だと思っているのはエボラではなく、エイズです」と述べ、「エボラは克服すべき危機だが、大きな課題はそれだけではなく、ほかにもある。その一つがエイズの流行で、世界でも、日本でも依然、深刻な状態にあることを伝えたい」としてaktaを中心にしたコミュニティレベルでの活動の継続を高く評価した。
 aktaはわが国のエイズ対策の迎賓館と一部ジャーナリストから呼ばれるほど数多く、HIV/エイズ分野の内外要人の表敬訪問を受けてきた。ピオット博士の後任のミシェル・シデベUNAIDS事務局長や中国の国際ニュースキャスターでUNAIDS親善大使でもあるジェームズ・チャウ氏なども来日時にaktaでエイズアクティヴィストと親しく懇談し、日本のエイズ対策の現場を知る貴重な機会を得ている。
 
 ところがピオット博士はこれまで、しばしば日本を訪れているのにakta訪問の機会には恵まれず、aktaスタッフや研究者、HIV陽性者グループのメンバーらはこの日、「来ていただかないと雰囲気が分からないと思うので今日は非常に嬉しい」と博士を歓迎した。
 
 博士はあいさつの中で「いろいろなところで、エイズは終わりに近いという話を聞くが、そうではないと痛感している。ロンドンでは毎日5人のゲイ男性がHIVに感染している。多様性があり、同性婚が認められ、保健システムも充実している。そうした都市でも流行は続いている」と語るとともに、「UNAIDSの事務局長は退任したが、大学院の学長として国際的にも国内でも活動は続けている。コミュニティでの活動がいかに重要であるかということは強く感じている」と対策継続の重要性を指摘した。
 
 また、最近は治療の普及が予防対策にもたらす効果を強調するあまり、コミュニティレベルの地道な活動を軽視する傾向が見られることに危惧の念を示し「公的なエイズ対策では医学面での対応が強調され、コミュニティの大切さが十分に訴えられていない。ヨーロッパやアメリカでもコミュニティ活動への支援が減額されている。こうした傾向が続くようだと、これまで以上に多くの人が感染することにもなりかねない。そうならないよう、皆さんの活動を知って、それを伝えるメガフォンになりたい」と語った。
 
 aktaスタッフからはコミュニティセンターaktaの概要や日本の流行の現状などが報告された。
 
 それによると、日本では毎年1500人くらい新たに感染が分かる人がいて、その7割が同性間の性感染の男性で占められている。2003年にはaktaと大阪のDistaが大都市内部のゲイコミュニティのHIV/エイズ啓発活動のためのコミュニティセンターとして開設され、2011年にはエイズ対策事業として全国6カ所でコミュニティセンターが運営される体制が整った。

 
 新宿二丁目には、ゲイバーが350軒あり、その中で、aktaはフリースペースとして土日を含む週5日、16時から22時まで開いており、気軽に立ち寄れる休憩所やイベントスペースとして利用されている。利用者は10代から70代まで年間8000~9000人。また、MSM(男性とセックスをする男性)向けのHIV予防啓発資材の開発やデリバリーボーイズの活動の拠点にもなっている。
 
 デリバリーボーイズは毎週金曜夜におそろいのユニフォームを着て、約170軒のゲイバーにコンドームと啓発の資料を届け、HIV感染予防を呼びかける活動を続けており、年間で6万6000個のコンドームを配っている。
 
 また、特定非営利活動法人ぷれいす東京とaktaによるLiving Together計画はHIV陽性者やその家族、友人らの手記を朗読するイベントを続け、手記を通してHIV陽性の人もそうでない人もすでに社会の中で一緒に生きているというリアリティを広く伝えている。
 
 これらの活動はゲイコミュニティ内部に大きなHIV感染予防効果をもたらしてきたが、最近は政府のエイズ予算の削減の動きが強まる中で、コミュニティセンターの活動も予算面から大きな制約を受け存続の危機に立たされているという。