野口俊晴(ファイナンシャルプランナー)

残業代は「安すぎる」か


 過労死や過労自殺を引き起こしている長時間残業が問題になっています。そもそも会社で長時間働くことは割が合わないと、筆者はずっと思っていました。個人の考えとしては、「残業代は安すぎる」ということ、残業のために自分の人生を無駄にしたくないという立場です。
 だから残業代を上げろというのではありません。残業代は基本賃金を基に計算されます。労働基準法では法定労働時間(一日8時間、週40時間)を超える労働に対して、1時間当たり基本賃金の1.25倍(深夜労働は1.5倍)の割増手当を払うことが義務付けられています。本稿で残業代が「高い、安い」という場合は、この手当の金額に対してではなく、残業して得られる代償としての価値について言っています。

残業はオプション労働だ


 残業はあくまでオプション労働です。オプションである以上、本来、残業するかどうかは本人の選択によります。その選択する意思は、社員個人の価値観に深く関わってきます。では、残業するために代償となる価値とは何でしょうか。それは、自分の趣味、友人知人との交わり、恋人との交際、家族との寛ぎ、知の探求、芸術の創造、他者への貢献など、個人の時間や権利というものです。その個人の価値観と引き換えるのに、基本賃金の1.25倍程度の割増手当が「高いか、安いか」ということです。

 次に、実際に残業するかどうかを決めるのは何によるのでしょうか。それは、働く自分のインセンティブ(心的・経済的誘因)です。人それぞれインセンティブが違うから、残業を安く見積もる人がいる一方、高く見積もる人が出てきます。

インセンティブ次第で残業の価値は変わる


 この残業するためのインセンティブは、人によっては報酬であったり、成長、成功、地位、権限、名声、富、さらには専門知識や高度な技術などでしょう。専門の仕事を身に付けられるという強いインセンティブを持つ人ならば、手当なしでいくらでも残業するでしょう。こういう人たちにとって残業代は、たとえ0円でも「高い」価値を持ちます。

 そうは言っても、住宅ローン返済や子どもの教育費、その他もろもろ家計を考えたら、個人の生き方の権利とか価値なんて考えている場合じゃない、そう思う人がほとんどでしょう。残業代を当て込まないとやっていけない、そういう人は、残業できる許容時間を決めればいいのです。一定時間で残業を切り上げるか、高給や昇進のために過労死直前まで残業するか、それは自由です。残業するだけの価値を見出せなければ、日中に効率的に頑張った後は、定時でさっさと帰るまでです。