トップ棋士の一人である三浦弘行九段による前代未聞の“カンニング疑惑”は、第三者委員会が「不正の証拠なし」の結論を下したことで、日本将棋連盟の谷川浩司会長が辞任する事態に発展した。そうしたなかで、渦中の三浦九段の師匠が本誌・週刊ポストの直撃取材に答え、連盟執行部の対応を厳しく批判した──。

 1月18日、会見を開いた谷川会長は、三浦九段のソフト不正使用疑惑を巡って「(対応に)不備があったことに大きな責任を感じている」と語り、島朗常務理事とともに辞任することを表明した。一方、三浦九段は2月13日に羽生善治三冠との“復帰戦”が決まった。しかし、騒動はまだまだ収まりそうにない。

 「今後は将棋連盟による(三浦九段への)賠償の話が出てくるでしょう。これは高いですよ。1億円でもおかしくない」

 そう語るのは三浦九段の師匠である西村一義九段(75)だ。元将棋連盟専務理事でもある西村九段は、この問題が巨額の補償問題に発展すると断言した。
第三者委員会の調査報告を受けて会見する(左から)西村一義氏、三浦弘行九段=2016年12月
第三者委員会の調査報告を受けて会見する(左から)西村一義氏、三浦弘行九段=2016年12月
 騒動の発端は昨年10月。三浦九段が対局中に離席し、その間にスマホで将棋ソフトを使っている疑いが、対局相手の指摘などによって浮上したことだった。三浦九段は棋界最高位・竜王戦への挑戦権を得ていたが、連盟は10月12日、挑戦者の変更を決定。三浦九段への年内出場停止処分を発表した。これに対し、三浦九段が反論文書を発表する騒動に発展していた。

 疑惑の根拠となったのは、将棋ソフトと三浦九段の指し手の「一致率」だったが、将棋連盟に委嘱された第三者委員会(委員長・但木敬一元検事総長)は、昨年12月26日に「不正行為をしたと認める証拠はない」との調査結果を公表した。

 その結果を受けての谷川会長の辞任劇だったわけだが、西村九段は三浦九段の受けた“損害”への補償も必要だと力を込める。
「竜王戦の挑戦権剥奪と出場停止期間の経済的損失だけでも相当な金額になる。竜王戦に勝利すれば4400万円、4連敗したとしても1400万円の収入となるはずだったんですから。名人戦順位戦A級(名人位への挑戦権を10人で争うリーグ戦)の地位は保全されましたが、(欠場した対局が)最終順位に影響する。仮に今後、(B級に)落ちれば甚大な損害です。弁護士費用や精神的慰謝料を含めれば、1億円以上でもあり得ますよ」

 西村九段は、連盟の初期対応に大きな問題があったと指摘する。

 「10月12日に処分を決めているが、(連盟の)執行部は決定前に顧問弁護士にすら相談していない。ここが最大のポイントなんです。現在の理事会は経験不足で、未熟で、(将棋しか指せない)いわば天才バカの集まりなんです。バランス感覚のない人ばかり。理事の中でも片上大輔(35、六段)なんて、将棋はパッとしないけど東大法学部を出ていて、他の棋士よりは社会性があるだろうと思っていたが、はっきり言って中卒の私よりなかった」

 西村九段は、米長邦雄前会長(故人)時代を含め、20年以上にわたって連盟の理事を務めた経験がある。それもあってか、現職理事たちへの憤りは収まらない。

 「今回、第三者委員会を立ち上げたのも、外部理事(非常勤)である川渕三郎さん(日本サッカー協会最高顧問)、岡野貞彦さん(経済同友会常務理事)の2人から『証拠が明確でないのに処分してはいけない』と指摘を受けたからですよ。

 私が理事だった頃、『我々は将棋のプロで、一般常識を知らないことは恥ではない。法律のことは弁護士、税金のことは税理士に相談すればいい』と理事会で提案しても、理解できない理事ばかりだった。米長前会長は長所も短所もある人だったが、そういったことは理解していましたがね」


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