「どうしても言いたいことがある」 三浦九段が初めて語った騒動の内幕

『iRONNA編集部』

読了まで25分

三浦弘行九段(プロ棋士)

 まず初めに、どうしても言っておきたいことがあります。今年1月に私の疑惑を調査した第三者委員会の報告書概要が公表されました。あれを全部読んでくれた人は「無実」だと思ってくれると思いますけど、第三者委の結論は過去に起こったことは「後戻りできない」という中身でした。要するに「悪魔の証明をすることは不可能」という意味に近いと思うのですが、これは裁判で言えば「推定無罪」という意味ですよね。でも、無実と無罪では意味がまったく異なります。私が言ってもしょうがないのかもしれませんが、私への疑惑は「無実」であり、冤罪だったということは分かってほしいんです。

「疑惑は『無実』であり、冤罪だったということは
分かってほしい」(瀧誠四郎撮影)
 疑惑の発端になったのは、昨年7月26日に将棋会館で開催された竜王戦決勝トーナメントの久保(利明)九段との対局でした。対局中の私の行動から不正を疑い、(日本)将棋連盟に提案したことがきっかけです。「自分は気持ち良く指したいからルール作りをしてほしい」という趣旨で、対局中の電子機器の使用を規制すべきと訴えていたそうです。その提案後、連盟の理事が対局中の私の行動を監視していたそうですが、報告書にもあった通り、私にはソフト指しを疑わせる不審な行動はなかったのを理事自身が確認しています。
 
 このとき対局したのは、丸山(忠久)九段でしたが、丸山さんは私の行動を「不審に思うことはなかった」とはっきり言ってくださったんです。疑惑の対象となった四局のうち、二局が丸山さんじゃないですか。しかも、その前にも一局指しているんで計三局なんです。つまり、疑惑が浮上してから一番多く指したのは丸山さんだった、ということになります。その丸山さんのお話をその後に告発した人がちゃんと聞いておけば、こんなことになったのかどうか。かなりうがった見方かもしれませんが、告発者は丸山さんの話を聞きたくなかったのかな、とまで思ってしまうんですよ。もしかしたら、理事も監視していたわけですから、丸山さんが不審に思わないって言えば、そもそも私の疑惑自体に矛盾が生じてしまいますからね。
 
 もし仮に私が不正にソフト指しをやっていたのなら、丸山さんとの対局だって普通やるじゃないですか。これは言い方変ですけど。だから、最初から無理があったんですよ。私にとっては全部大事な一局ですけど、なぜか私の対局相手が勝った将棋は疑惑の対象から外して、逆に負けた将棋は対象に入れるとか、言いたくはないんですけど私を嵌めようとしたのか、それともこうしないと矛盾が生じちゃうから、どうしてもそういう結論に持っていこうとしたのか。告発者からは、この対局で私がソフト指しをして、しかもこの局面で不正をしたとか具体的に言われたんですよ。でも、そうしなければ確かに矛盾が生じてしまう。だから、都合の良いように将棋ソフトとの一致率とかを抜き出して、あたかも私が不正をしたように疑われ、事実が捻じ曲げられていったんです。
どうしてこんなことに

どうしてこんなことに


 今の将棋ソフトは確かに強いです。プロ棋士同士の対局であれば、勝った対局というのはどうしてもソフトとの一致率が高くなる傾向はあるんですよ。形勢が悪くなってしまえば、その後お互いに最善手を続けていっても、優勢の方が必ず勝ちますよね。当たり前なんですけど。互いが100点の手を指していっても、最後は優勢の方が勝つに決まっています。だから局面が悪くなれば、必ずしも最善手ではなく、少し違ったひねった手を指して、相手の意表を突いたりすることもある。

 でも、それは往々にして良い手ではないんですよ。だから、対局で勝った方はソフトとの一致率がどうしても高くなりやすいんですよ。そうだとすれば、私が丸山九段と対戦して敗れた竜王戦(挑戦者決定戦)の一局目はなぜ疑わなかったのか。おそらく、そのときの一致率は高くなかったんでしょう。しかも「負けた将棋は関係ない」という感じで告発者には言われましたから。あのときの三番勝負で私が勝った二局目と三局目は、一致率が高かったという理屈にきっと持っていきたかったのでしょう。でもね、ちょっと細かい話なんですが、二局目のとき、私は長考して悪い手を指しているんですよ。私自身が長考してコンピューターより悪い手っていうか、コンピューターがこの手は最善手じゃないっていう手を。

 あのときはもちろん、それが最善手と思って指したんです。でも、対局が終わった後に反省というか、今の時代ですから、コンピューターを使ってチェックしてみると、あの指し手はコンピューターが言うところの最善手ではなかった。難しい局面だから、当然分からないまま指すってこともあるじゃないですか。あのときは私も凄い長い時間考えたんです。当然、長考した局面は、告発者も不正の疑いがないか、チェックしていたでしょう。にもかかわらず、私はそのときに悪い手を指した。だったら、これはおかしくないのか。告発者の理屈で言えば、私が不正をしてまで勝ちたいはずなのだから、わざわざ私が悪い手を、コンピューターが最善手とは思わない手を指す必要なんかないはずじゃないですか? (昨年10月11日に)連盟から呼び出されたヒアリングでも、私はそのことを強調して伝えたのですが、なぜかあまり相手にされなかったんですよ、そういうことを言っても。

 結局、私の言い分は最後まで聞き入れてもらえず、連盟から処分を受けたのですが、これってある意味、無実の人を死刑にしてしまうのと同じじゃないですか。もう、何を言っても完全にクロありきで話が進んでしまっていました。私からすると、本当に不思議だったんですよ。同じ釜の飯っていう言い方は変かもしれませんが、私を疑っている人はみな、私の性格をよく知ってるはずの人たちばかりなんで。私が無実というか、シロだと分かっている人もいたと思うのに、どうしてこんなことになるんだろう。それが一番、不思議でした。

《三浦九段の疑惑告発と処分に至る経緯》

 三浦九段は昨年7月26日、第29期竜王戦決勝トーナメントで、久保利明九段と対戦し、勝利した。この対局をめぐり、久保九段は、夕食休憩後の自分の手番で三浦九段が長時間離席し、他にも離席がみられたことなどから強い不信感を抱き、その後の検証で離席後の指し手と将棋ソフトの指し手が一致したという事例を同29日に開かれた日本将棋連盟関西月例報告会で告発。これを受けて、連盟は8月8日付で対局中の電子機器の取り扱いや、むやみな長時間の離席、宿泊室等への立ち寄りなどを控えるべきとする通知を所属棋士に出し、同15日から始まる竜王戦挑戦者決定三番勝負について、三浦九段の行動を監視することを決めた。三番勝負では三浦九段が2勝1敗で丸山九段に勝利したが、連盟は三浦九段の行動について不審な点はなかったとしながら、10月15日から始まる竜王戦七番勝負では金属探知機の導入や荷物検査を実施することなどを決定した。

 一方、三浦九段は10月3日の名人戦A級順位戦で渡辺明竜王と対局し勝利。渡辺竜王は対局中に三浦九段の離席が多いとは感じたが、ソフト指しをされたという印象は持たなかった。ところが、その翌日以降、観戦記者やソフト指しに詳しい一部の棋士との意見交換、自らソフトを使って検証した結果、三浦九段に対する疑惑を深め、同10日の会合で告発。連盟は翌日に三浦九段から事情聴取し、同12日に年内の公式戦出場停止処分を発表した。


完全にシロは「悪魔の証明」

 

完全にシロは「悪魔の証明」

 
 連盟の処分が決まり、謹慎する身になってからは、毎日が本当にきつかったです。その間には当たり前ですけど、将棋の勉強どころじゃないですよね。昨年12月の記者会見でもお話しした通り、やっぱりシロを証明するのが何よりも先だと。完全にシロにするっていうのは「悪魔の証明」みたいなもので難しいんでしょうけど。でもね、世間には私が無実であるというか、潔白であることを分かってもらえるように、限りなくシロだとわかってもらえるようにということで第三者委員会の調査には全面的に協力しましたよ。本当にあの2カ月半は、そういったことだけに明け暮れた期間でしたね。
「完全にシロにするっていうのは『悪魔の証明』みたいなもの」(瀧誠四郎撮影)
 もちろん、私も苦しかったんですけど、妻はもっと、本当にすごく苦しい思いをしてたんで…。妻にもよく言ってたんですけど、「自分は無実だから大丈夫だ」「自分はそれほど苦しくない」と。たぶん、これがもし不正をやっている人だったら、本当にどうしようもない苦しさにもがいていたんじゃないか、と思うんですよね。でも、私は無実だったから、妻にもそう声をかけたこともありました。

 ただ、やはり私の疑惑を調査する第三者委員会は、連盟が依頼した調査機関だったので、私の言い分をどこまで聞いてくれるのか、実は不安もあったんです。もしかすると、調査のさじ加減というか、調査が不十分であったりとか、連盟が調査の結果を握り潰して発表をしたりとか、ただただグレーみたいな結論で調査が終わってしまうとか、いろんなことが脳裏をよぎりました。

 これは言い方が悪いですけど、もしそんな調査結果だった場合は、もう裁判とかで徹底的にやるしかないなと。今でもないって言ってるわけではないんですけど。当然、そうなれば最終的に長い戦いになってしまうかもしれないんですけど、それはやるしかない。でも、自分はやってないから最後には勝つというか、無実を証明できるというか、「きっと大丈夫だ」と妻には言ってました。

 でも、妻からは「あなたが不正をやっていたのだったらともかく、やってもいないのになんでこんな目に遭わないといけないのか。それが一番苦しい。発狂したくなる」と本音で迫られたこともありました。ちょうどこの騒動に巻き込まれた時期に子どもの検査のための入院も重なり、私以上に心労が重なっていたと思います。

 私以上に苦しんでいる妻の姿をみて、私もつらかった。でも、そんなときは生まれたばかりの子供の顔を見たり、世話をしたりしているうちに、気持ちを落ち着かせることができました。家族の支えはもちろん大きかったですけど、やはり私を最初から最後まで信じてくれた棋士仲間の存在がやっぱり大きかったですね。とくに丸山さんとか。

 普段、寡黙な丸山さんが自らの不利益も顧みず、「不審に思ったことは全然ない」とそこまで言ってくださったのはありがたかったです。他にも、女流棋士の竹俣紅さんや元女流五段の林葉直子さんとか、研究会をかつてやっていた仲間とかも私のことを信じてくれました。そういうのは支えになりましたよね。

《疑惑を調査した第三者委員会の結論》

 将棋連盟が昨年10月27日に設置した第三者調査委員会が、調査の対象とした対局は下記の通り。
① 2016年7月26日 竜王戦決勝トーナメント 対局相手は久保利明九段
② 2016年8月26日 竜王戦挑戦者決定三番勝負第二局 対局相手は丸山忠久九段
③ 2016年9月8日 竜王戦挑戦者決定三番勝負第三局 対局相手は丸山忠久九段
④ 2016年10月3日 名人戦A級順位戦 対局相手は渡辺明竜王

 調査対象となった四局について、不正の根拠として指摘されたのが、三浦九段の離席中の行動と将棋ソフトとの一致率だった。第三者委は、三浦九段本人と家族が使用したスマートフォンやパソコン、タブレット端末計9台について外部業者に解析を依頼。ソフトが示す候補手の中で最も評価値の高い指し手(最善手)と実際の指し手が一致する確率を調べたところ、上記の四対局の一致率はいずれも70%以上と高かったが、三浦九段以外の棋士でも70%を超える一致率が確認され、最も高い一致率は90・63%だった。ただ、一致率は分析ごとに相当ばらつきがあり、「不正を認定する根拠に用いることは著しく困難」と結論づけた。

 また、最初に不正疑惑を指摘した久保九段との対局について、第三者委は記録された対局映像を分析した結果、久保九段が証言した「夕食休憩後に三浦九段が31分間離席した」という事実はなく、久保九段の誤認だったと断定。また、丸山九段と渡辺竜王との対局を含むいずれの対局も、三浦九段の指し手に不正行為を実行したことを裏付ける根拠はなく、実質的な証拠価値の乏しいものだったと判断した。

谷川会長にはとても感謝


谷川会長にはとても感謝しています

 
 そういえば、フジテレビの『とくダネ!』って番組があるじゃないですか。謹慎中にたまたまテレビを見ていたら、メーンキャスターの小倉(智昭)さんでしたっけ。たしか番組中に「やってないと思いますけどね」って言ってくれたんですよ。もちろん、私のことはあんまり知らないでしょうし、私の性格とか人柄をそんなにご存じない方までそんなふうに言ってくれたのがすごくありがたいと思いました。これも変な言い方ですけど、さすがだなと思ったところがあるんですよ。分かるんだなっていうか。いや、あれで、ちょっと小倉さん好きになりました。

 なんて言えばいいのかな、意外に外の方がそういうふうに言ってくれたのはありがたかったんですけど、じゃあ何で私と同じ世界に身を置く棋士で疑った人がいるのかな、って逆に不思議に思うこともあります。私も対局者だったら、きっと不正をしているかどうかは分かるだろうっていうのがありますんで。

「谷川会長にはとても感謝しています」(瀧誠四郎撮影)
 もっと本音を言うと、将棋連盟があのとき「三浦は不正をやってないと信じています」という発表をしてくれていたらと思うことはあります。竜王戦を主催する読売新聞もクロと断定されない限り、「挑戦者は三浦で行くんだ」とか。その結果、第三者委員会の調査結果でシロという結論になっていれば、今回の疑惑をめぐる一連の騒動もここまで大きくならなかった気がします。

 一連の責任を取って、谷川会長が辞任されました。谷川会長は私も尊敬する方でありますし、谷川会長が理事の仕事でお忙しくなった際には私が谷川会長のお仕事を引き継がせてもらった経緯もあるんですよ。私は谷川会長にはとても感謝していますし、その気持ちはきっと伝わってると思います。

 実を言うと、ちょっと前に谷川会長のお兄さまからお手紙を頂いたんですよね。といっても、うちの師匠(西村一義九段)に手紙を出してくれたらしいんです。それが私の手元に来たってという話なんですけど。プライバシーのこともあるので多くは語れませんが、「自分の弟の裁定、処分を下したことについて申し訳なく思う」っていうふうに書いていただいて。私のことを疑って申し訳なかったという下りもあり、謝罪の気持ちが全面に伝わる内容でした。

 もちろん、一番きつい思いをしたのは私だと思っているんですけど、ただ谷川会長が辞任されたときの様子を見ても、会長もきついんだろうなという感じは伝わったので。谷川会長も、ある意味、被害者のようなものですしね。その谷川会長のお兄さまの手紙で、自分の中にあった激しい怒りの感情みたいなものが少し収まったという気がします。
私や将棋界を無茶苦茶にした人たち


私や将棋界を無茶苦茶にした人たち

 
 連盟も今回の騒動で大変な被害を被ったと思うんですけど、ただやっぱり悪意を持って、私のことや将棋界全体を苦しめた一部のメディアと一部の棋士、そして私が不正をしているという噂をまき散らし将棋界を無茶苦茶にした観戦記者の小暮克洋氏だけは、許せないという気持ちはありますね。私の場合、渡辺明竜王との対局直前に「週刊文春」が疑惑を報道するとの情報が飛び回り、連盟が急きょ出場停止処分を下しました。この文春報道が私の人生を狂わせるきっかけになったのは紛れもない事実です。
平成8年7月30日、第67期棋聖戦第5局、挑戦者の三浦弘行五段が羽生棋聖を下し、タイトルを奪取。羽生の七冠独占を崩した=新潟県岩室温泉の高島屋
 やっぱり間違った報道をしてしまった以上、被害にあった当事者に対して名誉を回復するための努力はメディアだってするのが筋なんじゃないですか? 元の状態に戻すのは無理なのかもしれませんが、その姿勢が伝わるような報道があれば、もちろん認めたいし、ただそれとは別に間違ったことを書いたのであれば、やっぱり誠心誠意謝るべきだと思います。
 
 でも、現実はなかなかそうならないですよね。一度クロと決めつけて書いてしまった以上、自分たちに都合の良い、ありとあらゆる情報をつなぎ合わせて、たとえ無実の人であろうが、世間にはクロだと信じ込ませるような記事につくり上げていく。その結果、事実とは全く異なる記事だったとしても、彼らは謝罪文どころか、とことん逃げ切ろうとしますよね。

 「はい、もうこれは終わりだから次」というようなのは、ちょっといくらなんでも…。そんなのを認めてしまう世の中というか、報道の在り方ってのは、誰がどう考えてもおかしいと思うんですよね。第三者委員会の発表があった後も、私のことを不正をした棋士であると言っている一部の人たちが印象操作をしている事実に、私と家族は苦しんでいます。
 
 実は今回の騒動が起きなければ、家族が私に内緒で竜王戦第三局を見に来るつもりだったらしいんですよ。でも結局、騒動のおかげでキャンセルになって潰れてしまって…。家族はそういった楽しみも突然奪われて、しかも地獄に突き落とされたんです。他にも、私の応援のために現地に来るのを楽しみにしてくれてたファンもいるんですよ。竜王戦は直前に挑戦者が変更になりましたから、その方はホテルだったか、旅館だったかをキャンセルしてしまったんです。ファンの方までもそういう目にあってるんですよ、だから本当に申し訳ない、ファンの方には心から申し訳ないと思っています。家族だけじゃなくて、私を応援してくれる方にもつらい思いをさせたっていうのは、ちょっとやっぱりね、本当に胸が痛んでいます。
 
 ただ、じゃあメディアが全部悪いかというと、そうとは限りません。ある記者の方なんかは、最初の報道で私のことを疑ってしまったことをすごく謝ってくれて、それを記事にしてくれました。その方の勇気というか、なんて言えばいいんですかね、間違って悪かったらきちんと謝るっていうのが、やっぱり人として一番大事なことだと思います。そういったことができる人を、私もそんなに責める気持ちにはならないんです。ただ、やっぱり繰り返しになりますけど、悪意を持って私や将棋界を苦しめた人たちとは今後も戦うつもりです。もちろん、名誉回復のためではありますが、でもそれは私だけじゃなくて、連盟も同じ気持ちでいてくれたらなと思います。

第三者委「疑心暗鬼生じさせないシステム構築必要」と所感

 将棋ソフトの棋力の向上により、今や連盟は未曽有の危機に直面している。
 将棋ソフトが存在しなかった時代あるいはソフトの棋力が弱かった時代においては、プロ棋士同士は互いに信頼し、互いの棋力を戦わせることに全身全霊を傾け、連盟はそうした戦いの場を設けることに専心していればよかった。しかし、本調査に基づけば、将棋ソフトの棋力が最強の棋士と互角となり、これを凌駕する勢いとなった時代を迎え、対局者が将棋ソフトを使うのではないかという疑心暗鬼がプロ棋士の心の中に生じてきたことを見逃すことはできない。こうした不信感を放置すれば、やがて棋士はもちろん、次世代のプロ棋士を志す者、将棋を愛好する人々の心に影を落とし、将棋という我が国の精神文化を内部から腐食させてしまう危険を感じざるを得ない。連盟は、そうした事態を直視し、的確に対処する責任がある。
 例えば、将棋の普及においても、少年少女に人知の限りをぶつけ合う尊さを教え、他方で将棋ソフトの正しい位置づけを示す必要に迫られている。公式戦においても、対局したプロ棋士に疑心暗鬼を生じさせない合理的システムを構築する必要に迫られている。電子機器を持ち込ませないための具体的手続き、故意の有無を問わず対局室(指定された休憩室等の関連領域を含む。)に電子機器を持ち込んだ場合の敗戦等の制裁、対局中の行動の規制、不正行為に対する除名を含む処分等について、現実を直視し、精神文化を守るための体系的な規程を早急に整備すべきであろう。
 幸い連盟の会員は皆将棋を愛し、知力に満ちた人々である。この時代に即して将棋ソフトの正しい位置づけを大いに議論し、将棋の正しい普及と、公式戦の清廉さを守る賢い道を見出してもらいたいと切に願わざるを得ない。
 最後に、当委員会は、三浦棋士が不正行為を行ったと認めるに足る証拠はないとの結論を示した。連盟は、三浦棋士を正当に遇し、同棋士がその実力をいかんなく発揮できるよう、諸環境を整え、一刻も早く将棋界を正常化されるよう要望するものである。



こういうことが起きてはいけない

次は絶対にこういうことが起きてはいけない


 いろいろありましたけど、私の復帰戦が2月13日に予定されています。相手は羽生(善治)さんです。なぜか私の人生の大きな節目というか、勝負どころで必ず羽生さんと当たるんです。偶然にしてはよくできてるなというか…。はい。大きな勝負だと必ず羽生さんと当たるんですよ。これも何かの縁なんでしょうけど。

「平常心で指していつも通りの将棋をお見せすることが
ファンへの恩返し」(瀧誠四郎撮影)
 でも、今までと一番違うのはやっぱり今回の騒動があったことです。まともに実家にすら帰れない状態でしたし、今までとは全然違った状況なのは私が一番分かっています。ただ、他の人だったらこんな状況に耐えられるのかな? 今は少しずつでも普段の生活に戻していかざるを得ないですし、対局するにあたって、落ち着いて平穏な状態で指さないといけないと思ってます。復帰する以上はブランクがあろうがなかろうが、ベストを尽くすしかないと思っています。

 別に今回の騒動がなかったとしても、自分の理想通りの状態で対局に臨めないことっていうのは多いですから、これはもうしょうがないと思っています。楽観的に考えるしかないというかね。ある意味、普段通りというか、むしろ調子のいいときでも、羽生さんには負けるのは普通のことですから。

 ただそうですね、ちょっとこんなに期間が空いて、対局するというのは今までなかったので…。これは言い訳してるわけじゃないですけど、調子は徐々に戻っていくものだと思っていますし、そうしたらまた以前の状態と同じように勝ったり負けたりっていうかね、それぐらいには戻したいですよね。

 ただ、一番の不安というか、問題なのは、もし私が負ければ、また変なことを言われるんじゃないかというのがあります。要するに、もし羽生さんとの対局で私が負ければ、「やっぱり不正をしてないから負けた」みたいなことを言われるんじゃないか、という心配はあります。

 そういう意味では、ちょっと神経質になっているというか、騒動を引きずっている部分は否めません。私は騒動の当事者だから、異常に神経質になっているところもあると思うんです。だけど、他の棋士にも少なからず今回の騒動で神経質になっている人もいるんじゃないかという危惧もあります。
 
 だからこそ、私が連盟にお願いしたいのは、私の名誉回復はもとより、私を含めた他の棋士たちも気持ちよく指せる状況づくりに心血を注いでほしい。そのためにも、電子機器の取り扱いなどの規制やチェック体制はより厳格であるべきだと思っています。

 私は騒動が起きる前からこのことは言ってきたつもりですが、今回の騒動に巻き込まれたことでその思いは一層強くなったというか、私だけじゃなくて他の棋士たちも、周りの目を必要以上に意識しすぎてビクビクしながら指すのも嫌でしょうし、将棋界全体がもう次は絶対にこういうことが起こっちゃいけないという強い覚悟で臨むべきなんだと思っています。

 私は勝負師です。プロである以上、平常心で指して、月並みなんですけどやっぱり良い将棋をみなさんにお見せしたい。将棋というのは勝とうと思って勝てるものじゃない。平常心であることが一番良い将棋につながって、それが一番ファンのみなさんも見たい将棋につながるんだとしたら、何よりもそれを意識して将棋と向き合いたい。できるだけ早く将棋の勉強を再開して、平常心で臨んで良い将棋をね、いつも通りの将棋をお見せすることが、私なりのファンの方々への恩返しになるのかな、と信じています。
(聞き手 iRONNA編集長、白岩賢太/溝川好男)

みうら・ひろゆき 昭和49年2月13日、群馬県出身。西村一義九段門下。平成4年、18歳で四段に昇段しプロ棋士に。8年、棋聖戦で羽生善治七冠(当時)を破り、初タイトルを獲得。棋聖は1期に終わるが、以後もトップ棋士の一人として活躍。順位戦A級通算15期。

この記事の関連テーマ

タグ

三浦九段独白「あいつだけは許せない」

このテーマを見る