どうしてこんなことに


 今の将棋ソフトは確かに強いです。プロ棋士同士の対局であれば、勝った対局というのはどうしてもソフトとの一致率が高くなる傾向はあるんですよ。形勢が悪くなってしまえば、その後お互いに最善手を続けていっても、優勢の方が必ず勝ちますよね。当たり前なんですけど。互いが100点の手を指していっても、最後は優勢の方が勝つに決まっています。だから局面が悪くなれば、必ずしも最善手ではなく、少し違ったひねった手を指して、相手の意表を突いたりすることもある。

 でも、それは往々にして良い手ではないんですよ。だから、対局で勝った方はソフトとの一致率がどうしても高くなりやすいんですよ。そうだとすれば、私が丸山九段と対戦して敗れた竜王戦(挑戦者決定戦)の一局目はなぜ疑わなかったのか。おそらく、そのときの一致率は高くなかったんでしょう。しかも「負けた将棋は関係ない」という感じで告発者には言われましたから。あのときの三番勝負で私が勝った二局目と三局目は、一致率が高かったという理屈にきっと持っていきたかったのでしょう。でもね、ちょっと細かい話なんですが、二局目のとき、私は長考して悪い手を指しているんですよ。私自身が長考してコンピューターより悪い手っていうか、コンピューターがこの手は最善手じゃないっていう手を。

 あのときはもちろん、それが最善手と思って指したんです。でも、対局が終わった後に反省というか、今の時代ですから、コンピューターを使ってチェックしてみると、あの指し手はコンピューターが言うところの最善手ではなかった。難しい局面だから、当然分からないまま指すってこともあるじゃないですか。あのときは私も凄い長い時間考えたんです。当然、長考した局面は、告発者も不正の疑いがないか、チェックしていたでしょう。にもかかわらず、私はそのときに悪い手を指した。だったら、これはおかしくないのか。告発者の理屈で言えば、私が不正をしてまで勝ちたいはずなのだから、わざわざ私が悪い手を、コンピューターが最善手とは思わない手を指す必要なんかないはずじゃないですか? (昨年10月11日に)連盟から呼び出されたヒアリングでも、私はそのことを強調して伝えたのですが、なぜかあまり相手にされなかったんですよ、そういうことを言っても。

 結局、私の言い分は最後まで聞き入れてもらえず、連盟から処分を受けたのですが、これってある意味、無実の人を死刑にしてしまうのと同じじゃないですか。もう、何を言っても完全にクロありきで話が進んでしまっていました。私からすると、本当に不思議だったんですよ。同じ釜の飯っていう言い方は変かもしれませんが、私を疑っている人はみな、私の性格をよく知ってるはずの人たちばかりなんで。私が無実というか、シロだと分かっている人もいたと思うのに、どうしてこんなことになるんだろう。それが一番、不思議でした。

《三浦九段の疑惑告発と処分に至る経緯》

 三浦九段は昨年7月26日、第29期竜王戦決勝トーナメントで、久保利明九段と対戦し、勝利した。この対局をめぐり、久保九段は、夕食休憩後の自分の手番で三浦九段が長時間離席し、他にも離席がみられたことなどから強い不信感を抱き、その後の検証で離席後の指し手と将棋ソフトの指し手が一致したという事例を同29日に開かれた日本将棋連盟関西月例報告会で告発。これを受けて、連盟は8月8日付で対局中の電子機器の取り扱いや、むやみな長時間の離席、宿泊室等への立ち寄りなどを控えるべきとする通知を所属棋士に出し、同15日から始まる竜王戦挑戦者決定三番勝負について、三浦九段の行動を監視することを決めた。三番勝負では三浦九段が2勝1敗で丸山九段に勝利したが、連盟は三浦九段の行動について不審な点はなかったとしながら、10月15日から始まる竜王戦七番勝負では金属探知機の導入や荷物検査を実施することなどを決定した。

 一方、三浦九段は10月3日の名人戦A級順位戦で渡辺明竜王と対局し勝利。渡辺竜王は対局中に三浦九段の離席が多いとは感じたが、ソフト指しをされたという印象は持たなかった。ところが、その翌日以降、観戦記者やソフト指しに詳しい一部の棋士との意見交換、自らソフトを使って検証した結果、三浦九段に対する疑惑を深め、同10日の会合で告発。連盟は翌日に三浦九段から事情聴取し、同12日に年内の公式戦出場停止処分を発表した。