完全にシロは「悪魔の証明」

 
 連盟の処分が決まり、謹慎する身になってからは、毎日が本当にきつかったです。その間には当たり前ですけど、将棋の勉強どころじゃないですよね。昨年12月の記者会見でもお話しした通り、やっぱりシロを証明するのが何よりも先だと。完全にシロにするっていうのは「悪魔の証明」みたいなもので難しいんでしょうけど。でもね、世間には私が無実であるというか、潔白であることを分かってもらえるように、限りなくシロだとわかってもらえるようにということで第三者委員会の調査には全面的に協力しましたよ。本当にあの2カ月半は、そういったことだけに明け暮れた期間でしたね。
完全にシロにするっていうのは「悪魔の証明」みたいなもの(瀧誠四郎撮影)
「完全にシロにするっていうのは『悪魔の証明』みたいなもの」(瀧誠四郎撮影)
 もちろん、私も苦しかったんですけど、妻はもっと、本当にすごく苦しい思いをしてたんで…。妻にもよく言ってたんですけど、「自分は無実だから大丈夫だ」「自分はそれほど苦しくない」と。たぶん、これがもし不正をやっている人だったら、本当にどうしようもない苦しさにもがいていたんじゃないか、と思うんですよね。でも、私は無実だったから、妻にもそう声をかけたこともありました。

 ただ、やはり私の疑惑を調査する第三者委員会は、連盟が依頼した調査機関だったので、私の言い分をどこまで聞いてくれるのか、実は不安もあったんです。もしかすると、調査のさじ加減というか、調査が不十分であったりとか、連盟が調査の結果を握り潰して発表をしたりとか、ただただグレーみたいな結論で調査が終わってしまうとか、いろんなことが脳裏をよぎりました。

 これは言い方が悪いですけど、もしそんな調査結果だった場合は、もう裁判とかで徹底的にやるしかないなと。今でもないって言ってるわけではないんですけど。当然、そうなれば最終的に長い戦いになってしまうかもしれないんですけど、それはやるしかない。でも、自分はやってないから最後には勝つというか、無実を証明できるというか、「きっと大丈夫だ」と妻には言ってました。

 でも、妻からは「あなたが不正をやっていたのだったらともかく、やってもいないのになんでこんな目に遭わないといけないのか。それが一番苦しい。発狂したくなる」と本音で迫られたこともありました。ちょうどこの騒動に巻き込まれた時期に子どもの検査のための入院も重なり、私以上に心労が重なっていたと思います。

 私以上に苦しんでいる妻の姿をみて、私もつらかった。でも、そんなときは生まれたばかりの子供の顔を見たり、世話をしたりしているうちに、気持ちを落ち着かせることができました。家族の支えはもちろん大きかったですけど、やはり私を最初から最後まで信じてくれた棋士仲間の存在がやっぱり大きかったですね。とくに丸山さんとか。

 普段、寡黙な丸山さんが自らの不利益も顧みず、「不審に思ったことは全然ない」とそこまで言ってくださったのはありがたかったです。他にも、女流棋士の竹俣紅さんや元女流五段の林葉直子さんとか、研究会をかつてやっていた仲間とかも私のことを信じてくれました。そういうのは支えになりましたよね。

《疑惑を調査した第三者委員会の結論》

 将棋連盟が昨年10月27日に設置した第三者調査委員会が、調査の対象とした対局は下記の通り。
① 2016年7月26日 竜王戦決勝トーナメント 対局相手は久保利明九段
② 2016年8月26日 竜王戦挑戦者決定三番勝負第二局 対局相手は丸山忠久九段
③ 2016年9月8日 竜王戦挑戦者決定三番勝負第三局 対局相手は丸山忠久九段
④ 2016年10月3日 名人戦A級順位戦 対局相手は渡辺明竜王

 調査対象となった四局について、不正の根拠として指摘されたのが、三浦九段の離席中の行動と将棋ソフトとの一致率だった。第三者委は、三浦九段本人と家族が使用したスマートフォンやパソコン、タブレット端末計9台について外部業者に解析を依頼。ソフトが示す候補手の中で最も評価値の高い指し手(最善手)と実際の指し手が一致する確率を調べたところ、上記の四対局の一致率はいずれも70%以上と高かったが、三浦九段以外の棋士でも70%を超える一致率が確認され、最も高い一致率は90・63%だった。ただ、一致率は分析ごとに相当ばらつきがあり、「不正を認定する根拠に用いることは著しく困難」と結論づけた。

 また、最初に不正疑惑を指摘した久保九段との対局について、第三者委は記録された対局映像を分析した結果、久保九段が証言した「夕食休憩後に三浦九段が31分間離席した」という事実はなく、久保九段の誤認だったと断定。また、丸山九段と渡辺竜王との対局を含むいずれの対局も、三浦九段の指し手に不正行為を実行したことを裏付ける根拠はなく、実質的な証拠価値の乏しいものだったと判断した。