私や将棋界を無茶苦茶にした人たち

 
 連盟も今回の騒動で大変な被害を被ったと思うんですけど、ただやっぱり悪意を持って、私のことや将棋界全体を苦しめた一部のメディアと一部の棋士、そして私が不正をしているという噂をまき散らし将棋界を無茶苦茶にした観戦記者の小暮克洋氏だけは、許せないという気持ちはありますね。私の場合、渡辺明竜王との対局直前に「週刊文春」が疑惑を報道するとの情報が飛び回り、連盟が急きょ出場停止処分を下しました。この文春報道が私の人生を狂わせるきっかけになったのは紛れもない事実です。
1996年7月30日、第67期棋聖戦第5局、挑戦者の三浦弘行五段が羽生棋聖を下し、タイトルを奪取。羽生の七冠独占を崩した=新潟県岩室温泉の高島屋
平成8年7月30日、第67期棋聖戦第5局、挑戦者の三浦弘行五段が羽生棋聖を下し、タイトルを奪取。羽生の七冠独占を崩した=新潟県岩室温泉の高島屋
 やっぱり間違った報道をしてしまった以上、被害にあった当事者に対して名誉を回復するための努力はメディアだってするのが筋なんじゃないですか? 元の状態に戻すのは無理なのかもしれませんが、その姿勢が伝わるような報道があれば、もちろん認めたいし、ただそれとは別に間違ったことを書いたのであれば、やっぱり誠心誠意謝るべきだと思います。
 
 でも、現実はなかなかそうならないですよね。一度クロと決めつけて書いてしまった以上、自分たちに都合の良い、ありとあらゆる情報をつなぎ合わせて、たとえ無実の人であろうが、世間にはクロだと信じ込ませるような記事につくり上げていく。その結果、事実とは全く異なる記事だったとしても、彼らは謝罪文どころか、とことん逃げ切ろうとしますよね。

 「はい、もうこれは終わりだから次」というようなのは、ちょっといくらなんでも…。そんなのを認めてしまう世の中というか、報道の在り方ってのは、誰がどう考えてもおかしいと思うんですよね。第三者委員会の発表があった後も、私のことを不正をした棋士であると言っている一部の人たちが印象操作をしている事実に、私と家族は苦しんでいます。
 
 実は今回の騒動が起きなければ、家族が私に内緒で竜王戦第三局を見に来るつもりだったらしいんですよ。でも結局、騒動のおかげでキャンセルになって潰れてしまって…。家族はそういった楽しみも突然奪われて、しかも地獄に突き落とされたんです。他にも、私の応援のために現地に来るのを楽しみにしてくれてたファンもいるんですよ。竜王戦は直前に挑戦者が変更になりましたから、その方はホテルだったか、旅館だったかをキャンセルしてしまったんです。ファンの方までもそういう目にあってるんですよ、だから本当に申し訳ない、ファンの方には心から申し訳ないと思っています。家族だけじゃなくて、私を応援してくれる方にもつらい思いをさせたっていうのは、ちょっとやっぱりね、本当に胸が痛んでいます。
 
 ただ、じゃあメディアが全部悪いかというと、そうとは限りません。ある記者の方なんかは、最初の報道で私のことを疑ってしまったことをすごく謝ってくれて、それを記事にしてくれました。その方の勇気というか、なんて言えばいいんですかね、間違って悪かったらきちんと謝るっていうのが、やっぱり人として一番大事なことだと思います。そういったことができる人を、私もそんなに責める気持ちにはならないんです。ただ、やっぱり繰り返しになりますけど、悪意を持って私や将棋界を苦しめた人たちとは今後も戦うつもりです。もちろん、名誉回復のためではありますが、でもそれは私だけじゃなくて、連盟も同じ気持ちでいてくれたらなと思います。

第三者委「疑心暗鬼生じさせないシステム構築必要」と所感

 将棋ソフトの棋力の向上により、今や連盟は未曽有の危機に直面している。
 将棋ソフトが存在しなかった時代あるいはソフトの棋力が弱かった時代においては、プロ棋士同士は互いに信頼し、互いの棋力を戦わせることに全身全霊を傾け、連盟はそうした戦いの場を設けることに専心していればよかった。しかし、本調査に基づけば、将棋ソフトの棋力が最強の棋士と互角となり、これを凌駕する勢いとなった時代を迎え、対局者が将棋ソフトを使うのではないかという疑心暗鬼がプロ棋士の心の中に生じてきたことを見逃すことはできない。こうした不信感を放置すれば、やがて棋士はもちろん、次世代のプロ棋士を志す者、将棋を愛好する人々の心に影を落とし、将棋という我が国の精神文化を内部から腐食させてしまう危険を感じざるを得ない。連盟は、そうした事態を直視し、的確に対処する責任がある。
 例えば、将棋の普及においても、少年少女に人知の限りをぶつけ合う尊さを教え、他方で将棋ソフトの正しい位置づけを示す必要に迫られている。公式戦においても、対局したプロ棋士に疑心暗鬼を生じさせない合理的システムを構築する必要に迫られている。電子機器を持ち込ませないための具体的手続き、故意の有無を問わず対局室(指定された休憩室等の関連領域を含む。)に電子機器を持ち込んだ場合の敗戦等の制裁、対局中の行動の規制、不正行為に対する除名を含む処分等について、現実を直視し、精神文化を守るための体系的な規程を早急に整備すべきであろう。
 幸い連盟の会員は皆将棋を愛し、知力に満ちた人々である。この時代に即して将棋ソフトの正しい位置づけを大いに議論し、将棋の正しい普及と、公式戦の清廉さを守る賢い道を見出してもらいたいと切に願わざるを得ない。
 最後に、当委員会は、三浦棋士が不正行為を行ったと認めるに足る証拠はないとの結論を示した。連盟は、三浦棋士を正当に遇し、同棋士がその実力をいかんなく発揮できるよう、諸環境を整え、一刻も早く将棋界を正常化されるよう要望するものである。