次は絶対にこういうことが起きてはいけない


 いろいろありましたけど、私の復帰戦が2月13日に予定されています。相手は羽生(善治)さんです。なぜか私の人生の大きな節目というか、勝負どころで必ず羽生さんと当たるんです。偶然にしてはよくできてるなというか…。はい。大きな勝負だと必ず羽生さんと当たるんですよ。これも何かの縁なんでしょうけど。

将棋界全体がもう次は絶対にこういうことが起こっちゃいけないという強い覚悟で臨むべき(瀧誠四郎撮影)
「平常心で指していつも通りの将棋をお見せすることが
ファンへの恩返し」(瀧誠四郎撮影)
 でも、今までと一番違うのはやっぱり今回の騒動があったことです。まともに実家にすら帰れない状態でしたし、今までとは全然違った状況なのは私が一番分かっています。ただ、他の人だったらこんな状況に耐えられるのかな? 今は少しずつでも普段の生活に戻していかざるを得ないですし、対局するにあたって、落ち着いて平穏な状態で指さないといけないと思ってます。復帰する以上はブランクがあろうがなかろうが、ベストを尽くすしかないと思っています。

 別に今回の騒動がなかったとしても、自分の理想通りの状態で対局に臨めないことっていうのは多いですから、これはもうしょうがないと思っています。楽観的に考えるしかないというかね。ある意味、普段通りというか、むしろ調子のいいときでも、羽生さんには負けるのは普通のことですから。

 ただそうですね、ちょっとこんなに期間が空いて、対局するというのは今までなかったので…。これは言い訳してるわけじゃないですけど、調子は徐々に戻っていくものだと思っていますし、そうしたらまた以前の状態と同じように勝ったり負けたりっていうかね、それぐらいには戻したいですよね。

 ただ、一番の不安というか、問題なのは、もし私が負ければ、また変なことを言われるんじゃないかというのがあります。要するに、もし羽生さんとの対局で私が負ければ、「やっぱり不正をしてないから負けた」みたいなことを言われるんじゃないか、という心配はあります。

 そういう意味では、ちょっと神経質になっているというか、騒動を引きずっている部分は否めません。私は騒動の当事者だから、異常に神経質になっているところもあると思うんです。だけど、他の棋士にも少なからず今回の騒動で神経質になっている人もいるんじゃないかという危惧もあります。
 
 だからこそ、私が連盟にお願いしたいのは、私の名誉回復はもとより、私を含めた他の棋士たちも気持ちよく指せる状況づくりに心血を注いでほしい。そのためにも、電子機器の取り扱いなどの規制やチェック体制はより厳格であるべきだと思っています。

 私は騒動が起きる前からこのことは言ってきたつもりですが、今回の騒動に巻き込まれたことでその思いは一層強くなったというか、私だけじゃなくて他の棋士たちも、周りの目を必要以上に意識しすぎてビクビクしながら指すのも嫌でしょうし、将棋界全体がもう次は絶対にこういうことが起こっちゃいけないという強い覚悟で臨むべきなんだと思っています。

 私は勝負師です。プロである以上、平常心で指して、月並みなんですけどやっぱり良い将棋をみなさんにお見せしたい。将棋というのは勝とうと思って勝てるものじゃない。平常心であることが一番良い将棋につながって、それが一番ファンのみなさんも見たい将棋につながるんだとしたら、何よりもそれを意識して将棋と向き合いたい。できるだけ早く将棋の勉強を再開して、平常心で臨んで良い将棋をね、いつも通りの将棋をお見せすることが、私なりのファンの方々への恩返しになるのかな、と信じています。
(聞き手 iRONNA編集長、白岩賢太/溝川好男)

みうら・ひろゆき 昭和49年2月13日、群馬県出身。西村一義九段門下。平成4年、18歳で四段に昇段しプロ棋士に。8年、棋聖戦で羽生善治七冠(当時)を破り、初タイトルを獲得。棋聖は1期に終わるが、以後もトップ棋士の一人として活躍。順位戦A級通算15期。