北条かや(著述家)


 小田原市で、生活保護を担当する職員が「保護なめんな」「不正受給者はカスである」などの文字をプリントしたジャンパーを着用していた問題が、波紋を広げている。産経新聞の報道によると、ジャンパーは2007年、生活保護の受給資格を失った男が、複数の市職員をカッターナイフで切り付けた事件をきっかけに製作されたという。

 小田原市の関係者は「職員らの士気を高めるためだった」と説明しているが、このようなメッセージを背負って保護世帯を訪問することは、「士気を高める」というより「差別意識を深める」だけであろう。保護の質が上がるとも思えない。一体どうすればよかったのか。本稿ではその答えを「ベーシックインカム(最低生活保障)の導入」に求めたい。

 私たちの国の憲法第25条では、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」とある。憲法で定められた、当たり前の人権意識すら忘れてしまうほど、職員の現場は過酷だったのだろう。ケースワーカー1人で80世帯かそれ以上の家庭を担当し、複雑な事情を考慮しながらケアする仕事の大変さは、想像に難くない。しかし、だからといって「なめんな」「カス」は論外だ。不正受給はカスだと脅すのではなく、まずはそれを見抜くケースワーカーを増やすべきであった。

 その証左に、総務省がまとめた「生活保護に関する実態調査」(平成26年)を見てみよう。報告書では、平成24年度に発覚した不正受給の事例から1144件を抽出し、要因を分析している。不正受給の事案ごとに「定期訪問の実施状況」をみると、ケースワーカーが多忙で家庭訪問できなかったために、不正を見抜けなかった例が目立つ。
 中には、被保護者が福祉事務所に来て「面接」したことをもって定期訪問の代わりとしていた例もあった(厚労省は、面接を訪問の代わりにすることを認めていない)。明らかに現場のケースワーカーが忙しすぎる、生活保護世帯の増加に見合うケースワーカーが足りないために不正受給が起きた事例が、多数報告されているのである。