やると決めたら、大胆にドーンと。黒田東彦(はるひこ)日銀総裁はさすがだ。日銀生え抜きの白川方明(まさあき)前総裁ときたら、too late,too little(遅すぎ、ちょっぴり)策しかとらなかったために、金融緩和効果は出ず、むしろ円高・株安、デフレ加速を招く始末だった。

 それでも、その黒田さんに注文がある。異次元緩和を強化しても、来年10月予定の消費税率10%引き上げを脱デフレ遂行まで見送るよう、安倍晋三首相に進言することだ。

 理由第1は、今年4月からの消費税増税がアベノミクス効果、特に異次元緩和効果を台無しにしかけたという現実だ。安倍首相の信認が厚い黒田総裁は昨年9月、首相に対して増税による景気へのマイナスは金融緩和で打ち消せると進言したのは、大変な誤りだった。

 円安による物価押し上げと消費税増税の影響で、物価は急上昇し、実質賃金を大きく押し下げてしまい、増税後の消費需要を冷え込ませた。

 第2は、マーケットの一時的なにぎわいが実体経済の回復に結びつくとは限らない点だ。今回の緩和強化は、米国の景気回復や利上げ期待と重なって、ドル高・円安、株高に弾みを付けたが、ウォール街の投資ファンドの投機的思惑に左右される円や日本株価が安定した上昇を続けるはずはない。

 2000年代後半の円安・株高局面でも日本はデフレから脱出し損ねた。アベノミクスが株価を押し上げた13年でも、実質的な消費は低迷を続けた。量的緩和=株高=個人消費・設備投資増という米国型の好循環は、慢性デフレ病の日本で容易には実現しないのだ。

 金融緩和が実体経済に効き出すには約9カ月かかる、と米連邦準備制度理事会(FRB)幹部から聞いた。

 日本で異次元緩和が本格的に始まった時期は13年4月。9カ月後の今年1月からの日本の景気は消費税増税前の駆け込み需要と増税後の急激な反動減と夏場以降の低迷で覆われる。緩和効果が弱い上に消費税増税で需要を冷やすのは、まさに自殺行為である。

 安倍首相は4日から、消費税率再引き上げについて、前回の増税決断前のときとほぼ同じ顔ぶれの有識者からその是非について意見を聞く。その有識者、特に経済学者・エコノミストの多数は予定通り増税しても、景気に不安はないと主張したが、かれらはひと言も判断の誤りを認めようともせず、前回と同じく、「増税しないと、国債への信認が失われる」と繰り返すだろう。

 前回は滅多にない災厄だが、起きれば打つ手がない、という国債の「テールリスク」論に黒田総裁が同調した。

 国債相場の安定の鍵が日銀にあることは、日銀買い入れがもたらした相場の超安定から見ても明らかだ、

 総裁は今度こそ、一部有識者の妄論を一笑に付して欲しいところだ。(産経新聞特別記者・編集委員 田村秀男)