『無頼化した女たち』 水無田気流氏インタビュー
 
著者の水無田気流さん
 安倍政権は「女性が輝く日本」をつくるために、「待機児童の解消」「職場復帰・再就職の支援」「女性役員・管理職の増加」などの政策を掲げている。しかし、一方で、若い女性の専業主婦志向が強まっているとの報道もある。現在、女性は雇用や結婚、出産、家庭などでどのような状況に置かれているのか。『無頼化した女たち』(亜紀書房)を上梓した立教大学社会学部兼任講師の水無田気流氏に、女性たちの今、そして男性が抱える問題についても話を聞いた。

 ―― 今回の本は、09年に出された『無頼化する女たち』(洋泉社)を収録し、さらに前作以降の女性の社会状況についてまとめられました。

 水無田:前作では、主に80年代以降の女性を取り巻く動向を中心に書きました。今回は、そういった社会史的なものを踏まえつつ、震災以降の新しい考察を加えました。

 前作では、無頼化する状況、つまり女性が人を頼らずにひとりで生きていくことを前提とした社会が積み上げられていることを指摘しました。それが震災当時の「絆」の大合唱で少しは変化するのかと思ったのですが、結局「絆」はそんなに強まりませんでした。

 たとえば、婚活をする男女は増えたけれども、婚姻件数自体は戦後過去最低を更新しましたし、少子化も歯止めがきかない。震災前からあった傾向がより極端になったと言えます。そこで、本のタイトルも前作が無頼化「する」だったのが、今回は無頼化「した」となり、女性はますます無頼化していると。

 また、男性の生涯未婚率(50歳になった時点で一度も結婚していない人の割合)も、前作当時では16パーセントと高かったのですが、あっという間に2割を超え、孤立している。特に男性の場合、会社村の住人になってしまっているので、退職してみないと、いかに自分が孤立しているかに気が付きにくい面がありますね。

 ―― 09年以降の女性の雇用環境はどう変化したのでしょうか?

 水無田:男女ともに非正規雇用化は進んでいて、これまで、女性の非正規雇用は中高年と若年層が中心でしたが全年齢階層で進んでいます。女性では、非正規が過半数を占めています。たとえば、正社員の女性も結婚を機に半数が離職するかパートタイマーや派遣に働き方を変え、残りの半数も出産を機に仕事を辞めたり、働き方を変えたりすることが影響しているからでしょう。結果的に、正社員として子どもを産んで、そのまま残り続ける女性は実質的に25パーセント程度しかいないこととなります。

 ―― 結婚を機に、子どもを産まなくても、雇用形態を変える女性が多いのではどうしてでしょうか?

 水無田:それは、やはり家庭責任が取りきれないからでしょうね。今なお日本では、女性が担うべき家庭責任と家事・育児・介護などの諸々のケアワークが一体化しています。その上、外での仕事もあるとなると、時間のやりくりが大変なことになります。また、特に子どもをもつと実感しますが、女性はいざという時に家族のために時間をあけられることが前提とされているので、家の周辺地域からあまり離れられません。

 旧来の男性並みの働き方は、とにかく日常的な長時間労働と長期間の継続就労ですよね。長期間の継続就労については、出産や育児で一旦キャリアに抜けの出る可能性がある女性には厳しいですね。また、日常的な長時間労働も、家事や育児などのケアワークの責任が重い女性にはやはり厳しい。家事や育児、介護などが部分、部分に分解されれば、仕事は頑張ればできるかもしれませんが、家庭責任を負いながら会社人間として生きるのは難しい。

 ―― では、女性が結婚、出産後も正社員として働き続けるには、どうしたら良いでしょうか?

 水無田:まず、単位時間あたりの生産性を評価するような、評価システムに徐々にで良いので変えていくことですね。他には、同一価値労働・同一賃金の導入も必要なのではないかと思います。

 単位時間あたりの生産性を評価するシステムがなぜ必要なのかといえば、生産年齢人口が減少しているので、少ない人数でどれだけ生産性を上げ、より質の高い就労ができるかが問題だからです。しかし、ここ最近議論されている配偶者控除の廃止や移民の受入れにしても、とにかく泥縄式に働き手を増やす方向の議論ばかりなされている。これまで家庭でアンペイドワークに従事し、家族や地域社会の担い手であった女性を、お金に代わる労働に変えればいいという単純な発想で、時短や有給取得率を上げるといった働き方そのものを見直そうという方向にならないのが残念です。

 現在も女性は、家事・育児・介護とさまざまな家庭責任を取らなければなりません。また地域社会の担い手である既婚女性の場合、男性より睡眠時間が短いですし、90年代後半以降、共働き世代が増加しているので、家事育児の他にパート就労している女性が多数派のため、男性より女性のほうが総労働時間は長いと考えてよいでしょう。配偶者控除廃止は中長期的には必要だと思いますが、それによって現在よりも女性が外で働かねばならないということになると、ただでさえ家事育児などの無償労働時間も長い女性たちは、時間的にパンクしてしまいます。そうすると、女性が活躍している町内会やPTAの活動といった地域社会の担い手も枯渇してしまう。

 ―― 一方で、無頼化し、ひとりで生きている女性たちもいます。しかし、若い女性に目を向けると、専業主婦志向が強いとも聞きます。若い女性たちは、キャリア志向の女性たちを目指さないのでしょうか?

 水無田:ちょうど専業主婦志向の強い若い女性たちのお母さん世代というのは、1986年に施行された男女雇用機会均等法世代で、保守的な層と、自分の生き方を尊重する層に別れたと思います。それまでの日本では、多いときで女性が97パーセント、男性が98パーセントの皆婚社会でした。これは結婚以外の選択肢がなかったとも言えます。

 選択肢が増えた雇用機会均等法世代以降の女性は、子どもを産むとなると育児環境がまだまだ専業主婦が前提とされていたので、自分の個性やキャリアを尊重したい女性は子どもを産まなくなりました。ですから、あえて結婚、出産を選んだ女性というのは、もともと保守的で、そういった家庭で育った現在の若い女性は、専業主婦志向が強いのではないでしょうか。

 ただ、現在特に若い男性は総体的な賃金水準が低下していますから、20~30代の未婚男性で、結婚相手に専業主婦になってほしいという割合は5人に1人しかいません。一方の女性で、専業主婦になりたい割合は3人に1人ですからミスマッチが起こっているわけです。

 ―― 若い男性の賃金ベースが相対的に低下していて、共働きが増えているにもかかわらず、どうして女性と男性との間でズレが生じているのでしょうか?

 水無田:よく結婚に関して男性の収入が話題になりますが、まず日本というのは、所属社会で身分やどこに属しているかということがすごく重要視される社会なんです。女性は、会社に正社員として「所属」している男性と結婚することによって、社会の中や家族の中で「所属」を得られる。でも、男性の賃金水準の低下や就労形態の不安定さなど、女性側から見て「所属」に足ると思う男性が減っていますよね。

 ――保守的な女性と、無頼化した女性の対立を強調するような議論も時折見かけます。

 水無田:無頼化と保守化は、一見両極端に見えますが、これは社会が不安定なことの証左ですよね。今回の配偶者控除の廃止や第3号被保険者見直しなどを見てもわかるとおり、女性のライフスタイルというのは社会の過渡期に緩衝材として使われがちなんです。

 配偶者控除がなぜ高度成長期に考えられたかというと、この制度が導入された60年代頃までは、農林漁業などの第1次産業から第2次産業への転換期だった。第1次産業の農家では、お嫁さんも貴重な労働力ですから、みんな働いていましたが、製造業や建築などの男性向けの職場とも言える第2次産業が伸びていた頃には、男性を支える妻が奨励されたからなんです。

 質問にもあった保守的な女性と、無頼化した女性の対立のように、ここ1、2年、私自身、働く女性と専業主婦の税制問題や、ママ友カーストなどの取材を受けることも多くなりました。女性同士の論争というのは、昔からありますし、男性中心のメディアでは、女性同士の論争は高みの見物ですからおもしろいというのがあるんだと思います。そういう女性同士の戦いのように煙幕を張って、実際には女性を社会に都合の良い形で動員しようという有形、無形な力は働いていますから、女性もいい加減そういった手に乗らないで欲しい。ただ、女性が社会の問題に目が向くと困るというのもありますし、女性自身もそういった問題に目が向きづらい。なぜ女性が社会に目が向かないかというと、社会性のある女性がモテなくなるからなのではと(笑)。

 ―― 一方の男性については、お話のはじめの方で「孤立」しているという指摘がありました。

 水無田:OECD報告では、日本の男性は世界で一番孤独と言われています。仕事以外の人間関係が他国と比べて、圧倒的に少ないからなんです。そうすると、引退後の人生がすごく辛く、居場所がないですし、幸福かどうかという問題にもなります。

 また現在、男性の生涯未婚率は2割を超えており、現在20歳くらい若者の3人に1人は生涯未婚になるだろうとも言われています。男性の未婚率が上昇しているということは、未婚のまま老親2人を介護しなければいけない男性が今後急増する可能性があることを示しています。そうなると、まだ働き盛りにもかかわらず、介護のために仕事を辞めなければならなくなったり、生活保護の世話になる男性が増える可能性があります。

 ――男性、女性ともに難しい時代を迎えているわけですが、今後どのようにすればいいとお考えですか?

 水無田:男性にとっても、女性にとっても問題の多い働き方と家庭のあり方。今、女性が家庭の中で使っている時間をただ就労に回せばよいとうことではなく、日本社会の制度疲労の問題だと思うんです。繰り返しになりますが、そこを考えないで、泥縄式に女性や移民を導入しても、問題を先送りするだけです。

 そして、その間にも女性の時間的な負担は増え続けている。また、男性も従来のような家族を持てる人が減ってくるので、なし崩し的に介護などの家庭負担が重くなってくる。女性には従来の家庭責任プラス就労による家計負担を、男性には従来の長時間労働プラス介護負担をといったひたすら時間の負担増を推し進める政策は、早晩立ち行かなくなるでしょう。第一、誰もが幸福ではない社会になってしまう。そうならないためには、短時間でも生産性を上げたり、時短やワークシェアリングの浸透など、総合的な働き方の見直しをしていかなければなりません。これは若年層や女性の問題だけではありません。たとえば現在50代以上の管理職の男性層も、退職するまでに少しずつで良いので自分自身の働き方、定年後の生活を考えたり、部下の働き方への理解を深めていくなど、変わっていかないといけないと思います。(聞き手 本多カツヒロ)


水無田気流(みなした・きりう)
1970年生まれ。詩人、社会学者。早稲田大学大学院社会科学研究科 博士後期課程単位取得満期退学。立教大学社会学部兼任講師。2013年から朝日新聞書評委員をつとめる。著書に『無頼化する女たち』(洋泉社新書)、『黒山もこもこ、抜けたら荒野』『平成幸福論ノート』(田中理恵子名、光文社新書)、共著に『女子会2.0』(NHK出版)などがある。詩集『音速平和』(思潮社)で中原中也賞を、『Z境』(思潮社)で晩翠賞を受賞している。