田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授)

 北朝鮮が国家ぐるみで関わった金正男(キム・ジョンナム)暗殺事件は、いまだ世界の大きな関心を集めている。そこで注目されているのが、中国の出方である。北朝鮮の核実験による国連安全保障理事会の制裁強化をうけて、中国は北朝鮮からの石炭輸入を年内一杯禁止する処分を行った。これに対して北朝鮮は反発している。北朝鮮への各国の経済制裁が本当に実効性を持つならば、同国の経済失速はさらに鮮明になるだろう。他方で、東アジアの経済や安全保障のリスクを考える上で、中国経済の動向も大きな関心事であることは疑いない。
高層マンションの建設ラッシュに沸く中国安徽省合肥市。不動産開発投資は15年に比べ大きく伸びた=2016年10月(共同)
高層マンションの建設ラッシュに沸く中国安徽省合肥市。不動産開発投資は15年に比べ大きく伸びた=2016年10月(共同)
 中国経済は潜在的なリスクを抱えたまま、現時点では「安定」した状態にある。2016年の実質経済成長率も、6%台と国家目標の範囲内に落ちついた。もちろんGDP統計の真偽をめぐる議論は今も識者の間で沸騰中だ。ただ経済成長率が高いか低いか、その正確な数値は度外視しても、中国経済が短期的なリスクに直面していることは明白である。そのリスク自体、短期的には中国政府の財政と金融双方の政策スタンスに大きく関わっている。

 2014年夏に筆者は人民日報の国際版である『環球時報』に、中国の「バブル」についての“楽観的”な見通しを書いた。バブルの破裂、つまり不動産価格の急激な破たんからの経済の大失速は当面にないだろう、という見立てである。この“楽観的”な見通しがうけたのか、中国当局の意見を代理する人民日報の国際版にかなり大きく採用された。

 その後、AIIBへの参加についても寄稿するように要請があったが、日本は参加すべきではない、という原稿を書いた。ただしこれは中国の国策に背いたようで(笑)、現時点でその原稿がどうなったのか、一切音沙汰がなくなっている。筆者としてはとんだムダ働きであった。だが、かの国の報道姿勢の一端を知ったのはいい経験である。閑話休題。

 ところでその論説ではバブル破裂を回避するためには、積極的な経済政策を行うべきだと指摘した。特に金融緩和政策を行うべきだというのが趣旨であった。そして財政政策(公的部門主導の不動産投資の過熱)はその中身こそが、中国のバブルを生み出しているので、抑制していくべきだ、という主張だった。日本の経験からいえば、90年代初めのバブル崩壊とその後の経済失速は、金融の超緊縮とその後の維持に原因があったことを教訓としている。

 だが、中国の経済政策は筆者の親身な(?)アドバイスとは真逆の方向に傾斜していった。

 一つは財政政策の拡大である。これについては中国当局が、エコカー減税(自動車取得税を10%から5%へ引き下げ。現行は今年度末まで“減税”延長、税率は7%に)、公共事業の増加で対応した。これらは日本でも、リーマンショック後の対応策として政府がとったものと同じである。エコカー減税も規模は縮小しているが継続中であり、また公共事業も継続中である。問題はこの公共事業の中身である。