福田充(日本大学危機管理学部教授)

 自民党安倍政権はこれまで、国家安全保障会議設置法、特定秘密保護法、平和安全法制など、安全保障に関する法制度を整備してきたが、その方針は常に一貫していた。それは、グローバルな安全保障環境において国際的に求められる基準に適した法制度を日本国内で整備するという姿勢である。

 現在の安全保障、テロ対策はグローバルな枠組みにおいて機能するものであり、日本もその国際社会の中で生きている以上、グローバリゼーションに適応する形で改革すべきであるという方針である。現代の国際安全保障において、平和構築や集団安全保障も、テロ対策も、国際社会が一致団結して克服せねばならない課題であり、そのために日本に求められているのは安全保障における国際協調路線である。日本がこれまでの一国平和主義の殻を破って脱却するための生みの苦しみのプロセスである。

 この方針は、現在の国会で審議が進んでいるテロ等準備罪に関する組織犯罪処罰法改正案においても一貫している。国際化する組織犯罪への対処のため、国連において国際組織犯罪防止条約が発効した際には、当時の小泉政権において日本政府はこの条約に署名した。

 その後の自民党政権は、この国際組織犯罪防止条約が求める諸項目に関して国内法整備を進めるための作業を進めてきた。その一つが、国際組織犯罪防止条約における第5条の「組織的な犯罪集団への参加の犯罪化」である。この「組織的な犯罪集団への参加の犯罪化」を国内法制度において整備するための方策が、安倍政権が主張するところのこのテロ等準備罪に関する組織犯罪処罰法の改正案である。

 これが過去の経緯を踏まえて、メディアや野党によって「共謀罪」と呼称されていることは周知の通りであるが、これも繰り返されてきた「いつか来た道」である。これまでも通信傍受法は「盗聴法」と呼ばれて批判され、平和安全法制も「戦争法」と揶揄された。いずれも組織犯罪に対するインテリジェンス、国際安全保障におけるグローバル・スタンダードへの適応には不可欠な法整備であったにもかかわらず、極めてドメスティックな、レトロスペクティブな志向によるラベリングによって、本来なされるべき議論と合意形成が阻害されてきたという不幸な歴史が繰り返されている。

 通信傍受法も、特定秘密保護法も、平和安全法制も、完全な法体系ではなかったかもしれない。本来、国会ではその法案の不備が議論され、修正される過程の中で、政府による説明責任が果たされ、より広い合意形成がなされ、よりよい法体系が構築されるというのが、議会制民主主義の理想である。
テロ等準備罪の創設に反対する民進党の泉健太衆院議院運営委員会理事=2月16日午後、国会内
テロ等準備罪の創設に反対する民進党の泉健太衆院議院運営委員会理事=2月16日午後、国会内
 しかしながら、特定秘密保護法も、平和安全法制もこうしたラベリングによって「廃案ありき」が前提の野党や一部メディア報道によって、十分な議論が尽くされないまま、十分な修正が施されないまま、与党の数の論理により不完全な形で成立してきた。このパターンが、今回の組織犯罪処罰法の改正においても繰り返されようとしている。われわれ日本人はまずこの「負のらせん構造」から脱却しなくてはならない。