2017年03月10日 13:57 公開

レイチェル・ソーン、BBCニュース

英国の性労働者には、子供を持つ女性がかなり多いという調査結果がある。子育てをしながら性を売るとはどういうことか、その実態を探った。

「自分がやってきたことは、絶対に恥ずかしくなんかない」と、エセックス州出身のシェリーさん(42)は言う。「そして口には出さないけれど、私はものすごく怒っています。私自身や知り合いの女性たちが、世間に認めてもらえないことに」。

シェリーさんはこの20年間、男性に性を売る仕事をしてきた。ある時はストリッパーとして、ある時は売春宿で、そしてまたエスコート嬢の派遣業者を通して。

でもそのことは、12歳になる息子には秘密にしている。

シェリーさんは表と裏の生活を注意深く両立させている。息子には勤務時間の説明がつくよう、劇場の受付の仕事だと話してある。ベビーシッターに疑われないよう、時間延長には決して応じない。

「本当のことを知った子供から嫌われ、憎まれたという人をたくさん知っている。そんなひどい目に遭うのはいやです」

シェリーさんのようなケースは決して珍しくない。

英国には約7万2800人の性労働者がいるとされている。その大半が女性だ。

ランカスター大学の社会学者、ティーラ・サンダース教授によると、扶養家族のいない女性が次々と性労働産業に入ってくるものの、それでも子供のいる女性もかなりの人数だ。

性労働者の自助団体、イングランド売春婦共同体(EPC)も「性労働者の大半は母親だ」と指摘し、「ママをもっと安全に」という名前の短編映画「Make Mum Safer」と、ソーシャルメディア運動を支援している。性労働者を犯罪者扱いしないよう訴える運動だ。

多くの人にとって、性を売ろうと決心する理由は単純だ。お金、それだけだ。

シェリーさんもEPCを支持する1人だ。事務職の賃金の低さに「衝撃」を受け、20歳の時にロンドンの売春宿で働き始めた。

事務員の仕事でもらう給料は1万5000ポンド(約220万円)だったが、売春宿ではひと晩の稼ぎが100ポンドに達することもあり、はるかに大きな収入を得ることができた。

息子が生まれた頃には、男性の自宅やホテルに出向くエスコート嬢として働いていた。

この仕事に危険がつきまとうことは分かっているという。攻撃的な客に監禁された経験がこれまでに2回。暴行の被害に遭った同僚は何人もいる。

でも今は常連客が相手だと、シェリーさんは話す。そして例えば消防士のように、ほかにも危険な仕事はあると指摘する。「危険が賃金と釣り合っているどうか、自分の適性に合っているかどうか。そこを見極めればいいのです」。

売春婦が襲われる事件は珍しくない。1990年から2015年の間に殺害された性労働者は152人に上ると推定される。2012年以降、性労働者への暴力防止を掲げる非政府組織(NGO)「ナショナル・アグリー・マグズ(NUM)」に報告された強姦は280件以上。自分が取り締まりの対象になることを恐れ、被害を届け出ない性労働者も多いとみられる。


英国の法律はどうなっているのか?

・北アイルランドは法律で買春を禁止しているが、それ以外の全地域で性の売買は合法とされる

・ただし、性労働に関連する多くの活動が犯罪とみなされる

・この中には客の勧誘や売春宿の運営が含まれる

・売春を目的に街をうろついたり客を誘ったりしたとして、2014-2015年に456人の性労働者が摘発された

出典 英国法、売春に関する英下院内務特別委員会2016年中間報告)


シェリーさんにとって、賃金は重要だ。友だち親子を夕食に招いたり、クリスマスにちょっとぜいたくをしたりすることができる。

「自分の子を養うためにやっていることなのに、だれかに知られたら悪い母親という目で見られてしまう」と、シェリーさんは嘆く。

応援してくれる何人かの友人には打ち明けたが、息子の学校の先生に知られて社会福祉当局に通報されたら、と思うとぞっとする。

サンダース教授によると、社会福祉当局は性労働者の子供というだけで、その子は危険な状態にあると決めつけることがあるという。

だが同教授の研究からは、母親たちが電話を2つ持って使い分け、自宅に客を寄せ付けないようにするなど、仕事と子供を切り離している様子がうかがえる。

ジェニーさんもその1人だ。

イングランド北部で30年余り性労働を続けてきたが、娘と暮らす自宅に客を連れてきたことは一度もない。成人した娘には重度の障害がある。

ジェニーさんは現在60代。娘が1歳半の時、生活苦のあまり「切羽詰まって」売春に足を踏み入れた。

福祉手当は受給していたが、その額では食費と家賃を払うのがやっとで、乳母を雇う週1000ポンドの費用をまかなうことはできなかった。

だがこの仕事にはお金だけでなく、時間の融通がきくという面もあると話す。

「娘が学校で発作を起こしたりしたら、いつ呼び出されるか分からない。普通の仕事といわれる職に就くような時間はありません」

娘のために「しっかりした家庭環境を築いてきたことを誇りに思っている」と言うジェニーさんだが、別の仕事に就きたかったとも話す。だがそれは無理な話だった。売春を目的に街をうろついた、という犯罪歴があるからだ。

下院の内務特別委員会は政府に対し、性労働を犯罪扱いするべきではないと訴えている。ジェニーさんのように犯罪歴のせいでこの世界から抜け出せない人もいると、同委員会は指摘する。

ECPもまた、性労働者に必要なのは犯罪者扱いではなくて家族を養うための経済力だと主張し、政治家らに理解を求めている。

内務省は「性を売る人々を危険から守るよう尽力している」と強調するが、現行法の改正については6月に独自の調査報告が出るまで検討を保留する構えだ。

シェリーさんは法改正や意識改革に期待をかけている。性労働者に向けられる「厳しい目が弱まったら」、その時は息子に仕事のことを話すつもりだという。

「お母さんはよくやった、自分だけの力で何とかやってきた。息子がそう胸を張ってくれれば」と、シェリーさんは願っている。

(女性たちの名前は仮名です)

(英語記事 The mothers secretly working as sex workers