水島新太郎(同志社大学嘱託講師)

 ジェンダー問題は、人間の性が男と女という固定的な区別ではなく、流動的な存在であることを明らかにすることを目的に、今日まで人文科学をはじめとするさまざまな学問の領域で論じられてきた問題である。
 当初、日本におけるジェンダー問題は、男性優位な社会制度や体制の見直しを求めるフェミニストの女性たちが中心となり議論する、女性の問題(婦人問題)だった。1973年に、アメリカで既にあったWomen's Studiesの日本語訳として、井上輝子氏(和光大学名誉教授)が「女性学」という言葉を使い、以後多くのフェミニスト研究者たちによって「女性による女性のための学問」として当事者性に重点を置く形で研究が進められていく。

 一方で、1993年には『〈男らしさ〉のゆくえ』(新曜社)の著者で知られる伊藤公雄氏をはじめとしたプロフェミニストの男性たちが、これまで女性が中心となって議論してきたジェンダー問題に男性も関心を持つべきであると訴え、「男性による男性のための学問」としての「男性学」を立ち上げる。以後、ジェンダー問題に端を発する女性学、男性学に影響を受ける形で、ゲイ研究、レズビアン研究、今日よく耳にするLGBT(Lesbian Gay Bisexual Transgenderの略)研究といった、当事者の立場から個々人がそれぞれ直面する問題を考える研究分野が登場することとなる。

 以上のことから分かるように、我々がメディアや書籍を通じて見聞きするジェンダー問題は、当事者性という問題を軸にさまざまな分野から多角的に考えていかなければならない問題である。他人の問題を知り、「意識」することで、自分の抱えている苦悩や自分では気づくことのできない問題を考えるきっかけを得ることが出来る、その機会を与えてくれるのがジェンダー問題である。

 近年、わが国ではジェンダーに関するさまざまな問題がメディアでクローズアップされ、ジェンダーについて「意識」する機会が増えつつある。しかし、メディアでしばしば取り上げられるジェンダー問題は、賛否両論を生み、時として男女の間に大きな隔たりを生みもする。