片田珠美(精神科医)

【『男尊女卑という病』試し読み〈第3回〉】
男性が女性を軽んじてしまう様々なケースの分析から、男女が歩み寄る糸口を探る『男尊女卑という病』。静かに熱く注目される本書から、その一部を抜粋してお届けします。
第3回は、古くて新しい「お茶出し」問題。地域によってはこういう話が根強いところがあるかもしれません。女性起業家にかけられた言葉には、静かに絶句……。

男性がお茶出しをした時に流れる微妙な空気


 たとえば、仕事で訪れた会社でお茶を出してくれるのは、圧倒的に女性である。ごくまれに若い男性がお茶を出してくれるところもある。聞くと、そういう会社では、男性がお茶を出すと、相手の客が驚く表情を見せたり、「こちらでは男の人がお茶を出すんですね」と直接言ったりすることもあるという。
 接客している当人が女性だと、男性にお茶を持ってきてもらった際に居心地が悪いと感じることもあるようだ。彼女のほうが上司でも、(男性にお茶汲みなんかさせて……)という視線を、彼女に無遠慮に向ける客がいるらしい。特に来客相手が年配の男性だと、何か言いたくてたまらない空気をひしひしと感じるという。

 これは男女差のあまりない会社で聞いた話だが、男性優位が職場に染み渡っている会社だと状況は逆戻りする。女性の役職が上でも、暗黙のうちに、お茶出しや電話番は“男性より一段下の”女性の役目になっている。一例を挙げよう。

 デザイン会社に勤める30代後半の女性には、後輩の男性が2人いた。彼女は勤続10年目で、ポジション的には彼らより上である。その日はあいにく営業や打ち合わせでみんな出払っていて、会社にはほとんど人がいなかった。

 次々かかってくる電話に、彼女は自分の仕事をこなしながら、ほとんど1人で応対していた。見ると、後輩たちは、黙々と自分のことだけやっている。たまりかねて、彼らに「電話に出て」と言ったが、その時は何本かとっても、そのうちまた彼女だけが忙しく電話をとる羽目になった。

 そこに50代の男性上司が追い打ちをかけた。「○○君、悪いけど、お客さんが来たからお茶出してもらえる?」

 男性上司の目の前に、あきらかに彼女より暇そうな、若い男性が2人も座っているのに、お茶出しは彼女に回ってきたのである。お茶出しも電話番も大事な仕事の一つだと彼女もわかっている。こんなことで肩書きを振り回そうとも思っていない。けれども彼女は腑(ふ)に落ちないものを感じた。

 彼女たちが男性より軽んじられてしまうのは、中途半端なポジションだからというわけでもない。会社を起ち上げた女性社長であっても同じようなことはある。女性起業家があるインタビューに答えていて、印象的な話があった。

 起業家が集まる交流会に参加したその女性は、会場にいた男性から、彼女の仕事の内容についていろいろ質問をされていた。起ち上げたばかりの会社に興味を持ってもらえるのは嬉しかったし、その男性はソフトで感じもよかった。

 けれども最後に「パトロンはいるんですか? いや、お若く見えるから」と普通に聞いてきたそうである。

 もちろん彼女にそんな人はいない。意識の高い人が多そうな起業家の集まりでも、トップの女性の後ろにはさらに上の立場の男性がいるはずと思い込んでいる人もいるのである。

かただ・たまみ 精神科医。広島県生まれ。京都大学非常勤講師。大阪大学医学部卒業。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。フランス政府給費留学生として、パリ第8大学精神分析学部でラカン派の精神分析を学ぶ。精神科医として臨床に携わり、臨床経験にもとづいて犯罪心理や心の病の構造を分析。精神分析的視点から、社会の根底に潜む構造的な問題も探究している。主な著書に、『他人を攻撃せずにはいられない人』(PHP新書)、『他人の意見を聞かない人』(角川新書)、『他人の不幸を願う人』(中公新書ラクレ)、『自分のついた嘘を真実だと思い込む人』(朝日新書)などがある。最新刊は『他人を平気で振り回す迷惑な人たち』(SB新書)。