和田秀樹(精神科医) 

 学校法人「森友学園」の小学校認可申請をめぐり、さまざまな疑惑が持ちあがっている。これから子供が通う学校だというのに、校庭にごみを埋め戻したとか、補助金などを不正に受け取った疑いがあるとか、その他、理事長自身の経歴詐称まで報じられるようになった。

 ただ、政治家を利用して不当な利得を得ようとする人は今に始まったことではない。問題は、このような人物が行おうとしていた教育だからと言って、教育理念そのものが否定されることだ。たとえば、この学校は幼稚園児に教育勅語を朗唱させたことでも問題になった。それが戦前の軍国教育への回帰のような言い方をするテレビコメンテーターも多数見受けられた。
会見で持論を語る森友学園の籠池泰典理事長 =大阪市淀川区
会見で持論を語る森友学園の籠池泰典理事長 =大阪市淀川区
 だが、教育勅語を現代語訳すると「国民の皆さんは、子は親に孝養を尽くし、兄弟・姉妹は互いに力を合わせて助け合い、夫婦は仲睦まじく解け合い、友人は胸襟を開いて信じ合い、そして自分の言動を慎み、全ての人々に愛の手を差し伸べ、学問を怠らず、職業に専念し、知識を養い、人格を磨き、さらに進んで、社会公共のために貢献し、また、法律や秩序を守ることは勿論のこと、国家が非常事態発生の場合は、真心を捧げて、国の平和と安全に奉仕しなければなりません」(国民道徳協会訳)というもので、特段軍国主義や天皇陛下への忠誠心を煽るものでもない。

 確かに、児童虐待やDVなどの問題がある場合に、子が親にどれだけの孝養の義務を負うのか、夫婦を無理に続けないといけないのかということは、その後遺症に苦しむ患者を多数診てきた精神科医である私にも疑念はある。

 また、少子化と長寿化のため、在宅介護が物理的に不可能になる家庭が増えている現状を考えると、子が親に孝養を尽くさないといけないという日本的な道徳意識が多くの介護家族を苦しめていることは、老年精神科医である私も目の当たりにしてきていることだ。

 ただ、国家の非常時に国の平和と安全に奉仕するというのも、専守防衛の精神に反するものではないし、そのほかの点では現在も十分通用する道徳のように思える。朗唱させるだけで、その内容を園児にどのくらい伝えてきたのかはわからないが、この精神は否定されるべきものではないのは明らかだ。

 これらを鑑みると、今回の問題に際して保守論壇の人たちがやるべきことは、これに関与した可能性のある保守側の身内をかばう(潔白の証明を求めるのでなく、単にかばうのであれば、むしろ道徳教育の精神に反する)ことではなく、籠池氏が例外であって、やろうとしていた教育理念は安倍首相夫人が賛同したように決して間違ったものではないことを強調することなのではないか、と私は信じる。

 とはいえ、道徳教育を今改めて日本で行うべきというほど、今の日本人の道徳はすたれているとは思えないし、教育勅語の精神は今でも日本人に深く根付いているのではないかと私は感じている。