サウジ国王との会談を実現した孫正義の本当の狙い

『嶋聡』

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嶋聡(多摩大学客員教授、ソフトバンク前社長室長)

 人型ロボット、ペッパーがアラビア語で「来日を歓迎します」と挨拶した。3月14日、東京パレスホテル。孫正義ソフトバンクグループ社長が来日中のサウジアラビア、サルマン国王と会談したときのことだ。サルマン国王は「すばらしい!」と応じた。
ソフトバンクの人型ロボット「ペッパー」(AP)
 織田信長が、ポルトガル人宣教師、ルイス・フロイスから地球儀を送られ、「地球は丸い」ということを理解し、南蛮貿易を推進した。ポルトガル人は理解力に優れた日本のリーダーに取り入るのは新技術を見せるのが一番いいということを知っていたのだ。

 「織田信長は私の心のヒーローです」と孫社長はいう。この故事にならったわけでもあるまいが、孫社長はペッパーにアラビア語で挨拶させた。賢明なサルマン国王はロボット、AI、IoTが飛躍的に成長する「次代」を感じ取ったに違いない。
孫氏は25分の会談の中で、新設予定の11兆円(1000億ドル)規模のファンドを通じたIT投資で、同国の石油依存からの脱却に貢献すると伝えた。

 「サウジを投資を通じて繁栄させていく」と表明する孫社長に対し、国王は「すばらしい夜だった。大いに期待している」と答えた。ファンドの具体的な詰めはこれからだが、実現への大きな布石になった。

 2016年7月、アームを買収する際には、イギリス首相メイ氏に会った。12月7日、ニューヨーク、トランプタワーでアメリカ大統領、トランプ氏に会い、12月16日エネルギー事業推進の前に日露ビジネス対話でプーチン氏と肩を抱き合い談笑する。そして、今回のサルマン国王である。

 事業推進という遠くの的を見ながら、布石として政治トップに会い、戦略環境を整備する。これは私がソフトバンク社長室長の八年三千日で行ってきたことだが、賢明な孫社長はこの手法を自家薬籠中の物としたようである。

 経団連会館でプーチン大統領と「立ち話」をしたのは、政府筋からの急な連絡だったようだが、今回はペッパーのアラビア語での挨拶にも見られるように、準備して臨んでいる。
孫正義とサウジ副皇太子の出会い

 サルマン国王との会談の萌芽は、昨年9月、13機の飛行機、500名の派遣団とともに現れたムハンマド・ビン・サルマン・アル・サウド副皇太子と孫社長が日本で会談したことにある。サウジアラビアの経済改革と軍事、外交を握る副皇太子は。イニシャルから、「MBS」と呼ばれる。MBS副皇太子は、「我が国は石油中毒に陥っている」と述べ、2030年までに脱石油、投資立国を柱とする「ビジョン2030」を掲げる改革派として知られる。

 3ヶ月前の、2016年6月。当時のオバマ大統領と会談し、IS=イスラミックステートへ軍事作戦での協力を語ったMBS副皇太子は、シリコンバレーでフェイスブック、グーグルなどの経営陣と会った。IT投資に長けたパートナーを探しているMBS副皇太子に、シリコンバレーのCEOたちは孫社長の名を挙げ、推薦したのである。

 日本での会談の6週間後、2人はサウジの首都リヤドで会うことになった。総額約11兆円(1000億ドル)という、この種のものとしては史上最大のプライベート・ファンドの設立計画をスタートさせるためだ。シリコンバレー並みのスピードである。

3月14日、会談したサウジアラビアの
サルマン国王(左)とソフトバンクグループの
孫正義社長
 10月14日、ソフトバンクグループは、サウジアラビアの政府系投資ファンド「PIF」と共同で、最大11兆円規模のファンドを設立すると発表した。ソフトバンクは5年間で250億ドル(約2・6兆円)以上を、PIFは最大で450億ドル(4・7兆円)を出資するという計画である。

 米国ではグーグルやインテルなどシリコンバレーのIT企業が新興企業への積極投資を続けている。だが、米国に中国、日本、欧州を加えた主要4カ国・地域の2015年のベンチャー投資額でも約10兆円である。サウジアラビア、MBS副皇太子とともにぶちあげた構想は、世界一が好きな孫社長らしくまさに世界最大級のプライベート・ファンドである。

 計画が実現すれば、孫社長が考える、IoTの未来に投資できるようになり、サウジはその果実を得て、「ビジョン2030」が目指す「投資立国」実現へ一歩を進めることになる。

 2014年、「デジタル・インディア」を掲げたモディ首相と会談。インドへ10年で1兆円の投資を約束した。大きな改革ビジョンを掲げた国家リーダーと意気投合し、そのビジョン実現をサポートするというのはいまや孫社長の得意技になりつつある。

 モディ首相のときは互いの携帯電話番号を教えあった。サルマン国王はともかく、シリコンバレーの経営者とも親交のあるMBS副皇太子なら携帯電話で直接話せる仲であるように思える。11兆円規模のファンドは、MBS副皇太子の「ビジョン2030」にちなんだのか「ソフトバンク・ビジョンファンド」と名づけられた。
サウジアラビアの財政危機

 孫社長の実質パートナーである、MBS副皇太子には不安もある。MBS副皇太子は王位継承権で第2位とはいえ、権力基盤はまだ盤石ではないのだ。ソフトバンク・ビジョンファンド設立も経済対策での実績作りを急いだ面もあるとの情報もある。

 「ジャック・ウェルチ(アメリカ、GEの前CEO)に『次は誰が良いか』と聞かれたので、イメルト(GEの現CEO)がいいと推薦した。それをイメルトに話したら『私がCEOになれたのはマサのおかげか』と喜んでいたよ」と私に語ったことがある。孫社長の推薦がどこまで効果があったかはわからないが、率直に話したことは間違いない。孫社長のことだから、MBS副皇太子のすばらしさをサルマン国王に話したかもしれない。

 サウジアラビアの財政状況はかなり深刻である。歳入の七割を原油輸出に頼っているが、このところの原油安で2年連続歳入を歳出が上回っている。蓄積したオイルマネーを取り崩し、欧米の金融機関からの融資で賄っている。IMFは今の水準の原油安が続けば、「後五年でオイルマネーの蓄えは底をつく」と指摘している。

羽田空港に到着したサウジアラビアのサルマン国王(左)
=3月12日夜(代表撮影)
 そこで、MBS副皇太子が起死回生の策として考えているのが、国営石油会社サウジアラコムの株式上場である。サウジアラコムは時価総額200兆円(約2兆ドル)の会社になると予想され、2019年の上場をめざして準備中である。

 上場はニューヨーク、ロンドン、アジアでは香港を考えられており、残念ながら日本の東京市場は出遅れている。MBS副皇太子来日の際に政府関係者が東京証券取引所の上場を依頼したり、2016年10月に経済産業省のミッションがサウジアラビアを訪れたが、結果は芳しくなかったようだ。

 孫社長とサルマン国王、MBS副皇太子の関係がより密となれば、サウジアラコムが東京証券取引所で上場する可能性も高くなるだろう。これは日本の株式市場の活性化と、中東最大の石油供給国と日本の関係が強化されることになる。サウジアラコムの東京証券取引所での上場が実現すれば、今回の孫社長とサルマン国王の会談は大いなる戦略的意味を持つことになるだろう。

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