八幡和郎(評論家、徳島文理大教授)

 東京都知事選挙の戦い方を見て、「小池百合子は女義経だ」と私は評した。あの見事な戦い方は相手にとって手も足も出ないものだった。

 小池氏に勝てる候補がいるとすれば、「桜井パパ」こと桜井俊前総務省事務次官だけだっただろう。石原伸晃・自民党東京都連会長が桜井氏に要請し、桜井パパは固持しつつ断定的には拒否せず様子見をする。そして、安倍首相か菅官房長官から要請されて、しぶしぶといった風情で受けるのだろうと私はみていた。

 ところが、その会談の直前に小池さんは記者会見を行い立候補を宣言した。そうなれば激しい選挙戦になるので、息子への影響を考えた官僚の桜井氏は、断定的に要請をシャットアウトしたのである。

 そうなれば、増田寛也氏や鳥越俊太郎氏がどんなに足掻こうが「勝負あり」だった。鳥越氏のスキャンダルは、次点が鳥越氏から増田氏に代わっただけでしかなかった。もし、当初の予想通り、鳥越氏が対抗馬という情勢だったら、それを回避するために保守票が小池氏に集中して増田氏が泡沫候補化しただけのことだろう。
都知事選の立候補予定者共同記者会見に出席した(左から)小池百合子氏、鳥越俊太郎氏、増田寛也氏=2016年7月13日、東京都千代田区(三尾郁恵撮影)
都知事選の立候補予定者共同記者会見に出席した(左から)小池百合子氏、鳥越俊太郎氏、増田寛也氏=2016年7月13日、東京都千代田区(三尾郁恵撮影)
 なぜ小池氏を「源義経」と評したかといえば、一ノ谷の戦いで義経は、福原に陣を敷く平家を大軍が通れるとは想定のなかった背後から攻めた。そうなると、平家は手も足も出せずに完敗を喫した。その後、平家は屋島でも壇ノ浦でも、どうやったら活路を見いだせたか見当もつかなくなってしまったのである。

 小池氏もまた、練りに練った作戦を考え、一の矢が失敗しても二の矢も三の矢もあるという状況をつくりだし、これまで想像もできなかった高度なメディア戦略を編みだし、勝利を収めた。もう本当にほれぼれとするようなハンサムな戦いぶりとしか言いようがない。

 ただ、源義経は戦いには勝ったが、後白河法皇というワルにおだてられて墓穴を掘ってしまう。戦いに勝ったあと何をするかよく考えていなかったのだろう。そして、そのことで兄の頼朝に警戒されて、身を滅ぼしてしまうのである。