とはいえ、今この段階で石原慎太郎氏と小池百合子氏の話はどう書いても、小池氏が優位な感じがする。小池劇場といわれる空気のような熱い世論が覆っているからだ。都知事4期13年半の石原氏の数々の都政における実績と、まだ就任8ヶ月足らずで「負の遺産処理」以外実績らしいものがない小池氏を、都政という窓から見ると、較べようもないほどの大差がある。圧倒的に石原氏が優位だ。にもかかわらず、84歳と老いた石原氏を64歳の新人都知事が追い詰める構図がテレビ画面に大写しになり、石原氏が窮地に立たされている像が全国に放たれている。ある意味、犯人のようなイメージすらある。

 15年前の東ガスから都が購入した豊洲市場用地の買収交渉をつぶさに調べる話が急に持ち上がり、にわかに石原氏の仕事ぶりを問題視する空気が急浮上してきたからだ。この夏の都議選を突破することが全てであるように、にわかに都議会は証人喚問のできる百条委員会を設置し、やる気を「見せる化」し出したのだ。これをやらないと、落選の憂き目にあうとばかりの慌てようだ。なぜ、今こうした話なのか、設定時期の意味が分からない。

 筆者なりの読みは、都議会のオリジナル案というより、小池都知事派を装うことが当選の絶対条件であるかのような小池劇場の空気の中で、各都議の浮足立った気持ちから「追い込まれ百条」の設置になったのではないか。「真相を明らかにする」、この大義に誰も反対しない。共産、民進系の主張に公明、そして自民も乗った形だ。
定例会見を行う、小池百合子都知事=都庁(寺河内美奈撮影)
定例会見を行う、小池百合子都知事=都庁(寺河内美奈撮影)
 確かに毎回、都議選の度に3分の1の議員が入れ替わる。126名(現員)の6割が当選2回以下の議員で占められる都議会、「通りやすく、落ちやすい」都議選の実態からして、「木から落ちるとタダの人」になりたくない一心で都議らは動き回る。仕方ないと言えば仕方ないが、有権者からすると、当選第1主義よりこの4年間どんな実績があるのか公開して欲しい、それをもとに再選するかどうかを決める、という声が聞こえてくる。なぜいま豊洲の買収交渉の問題なのか、百条委員会を開いて何を明らかにしなければ困るのか、この説明を聞きたい。

 世論という急流は移ろいやすい。熱気の急流も何かをきっかけに急冷し、元に戻らないことが多い。“改革の旗手”と期待値が高く小池ブームに沸く現況に水を差す気はないが、少し冷静にみておくことも大事だ。

 忘れもしない4年少し前、石原氏の突然の知事辞任で後継指名を受けた猪瀬直樹氏は空前の430万票を得て都知事になった。しかし1年後、2020五輪の「たいまつを消すな!」との石原遺言を守り招致に成功したものの、例の5000万円問題で辞任した。

 その次は舛添要一氏。国際政治学者として2020五輪を託するにふさわしい、厚労大臣の実績から「老いる東京」問題の解決にもふさわしい人として都知事に選ばれたはず。だが、2年4カ月で「政治とカネ」の問題を説明しきれず失職した。去年の今ごろ(3月)を想い起して欲しい。舛添ブームとは言えなかったが、都知事3年目に入った舛添氏は職員の話もよく聞き指示も的確だと都庁官僚の評判は上々で、舛添都政は安定軌道に入ったかに見えた。

 筆者は年に一度、予算を審議する第1定例都議会の代表質問の日を傍聴することにしているが、1年前の舛添氏の姿は施政方針の説明も質問に対する答弁も自信に満ち、舛添都政の安定感を感じさせるものだった。それがなぜか5月の連休前後からおかしくなり、法外な海外出張費、週末の別荘通い、政治資金の公私混同などの集中砲火を浴び、6月15日、第2定例都議会の最終日に辞任したのだ。