森健(ジャーナリスト)

 一昨年夏、下村博文文科相(当時)による「国立大学における文系学部廃止」という問題が紛糾した。その問題に取り組んだ際、文部科学省のある高等教育局長経験者を取材した。
 当時、彼は名古屋大の教授で、所属は「アジアサテライトキャンパス学院」という新設されたばかりの部門。その時には「あまり聞かない名前だな」ぐらいにしか思わなかった。

 だが、今回文科省の天下り斡旋問題が発覚後に調べてみると、果たして彼の名前は上がっていた。同省の再就職等問題調査班が2月21日に発表した「調査報告(中間まとめ)」。その事例の「(4)」に実名で記されていた。

 同氏は、名古屋大に赴任以前、文科省の人事課職員から早稲田大学の常勤講師として再就職の打診をされていた。調査報告には、一連の行為は下記のように記されていた。
 <国家公務員法106条の2第1項に規定する「地位に就かせることを目的として」「役職員であった者を…地位に就かせることを要求し、若しくは依頼」したものと考えられる>
 判定は、違法だった。
 
 1月に発覚した文科省の組織的な天下り斡旋問題。2月末の時点で違法と認定されたのは計27件、前川喜平前事務次官や人事課職員など計16人が関与していたとされる。
文部科学省の天下りあっせん問題について会見を行う松野博一文科相=2017年2月
文部科学省の天下りあっせん問題について会見を行う松野博一文科相=2017年2月
 役人による天下り問題は、まったくもって新しい問題ではない。90年代、大蔵省(現財務省)や厚生省(現厚生労働省)、防衛庁(現防衛省)など各省庁で取り沙汰された古い問題だ。実際、厳しい制約を設けた改正国家公務員法も2009年に施行され、すでに終わった問題という認識だったものだ。

 だが、そうではなかった。今回の文科省の事件では、事務次官を含む、文科省という組織全体で進められていたことが判明した。事件の起点には、現役職員ではなく、人事課「OB」の存在があった。この「OB」という形で法の網をかいくぐれると判断したのが、組織的関与の端緒だったのだろう。

 こうした文科省の工作を、制度を盾に責めるのは容易い。実際、月2回の出勤で年俸1000万円をもらっていたと聞けば、誰しも憤るのも無理はないだろう。

 ただ、一歩引いた目で文科省を巡る構図を見ると、いまの大学業界には、こうした天下りがはびこりやすい温床はできていたのもわかる。一言で言えば、大学側にも文科省の役人を求めるニーズがあったということ。具体的には、研究者の研究活動を支える科学研究費(科研費)など補助金の獲得である。

 2年ほど前、グローバルでトップレベルの研究をしている大学を、北は帯広畜産大から南は長崎大まで10校ほど、全国各地に取材に回ったことがある。その取材では世界的に先進的な研究にたびたび瞠目したが、同時に、もう一つまったく別の面で驚くことがあった。広報担当者が、軒並み東京の出版社や新聞社出身の元編集者だったことだ。

 長崎大を訪れると、そこで広報担当者だったのは東京・大手町に本社を置く大手紙の元編集委員という人物だった。彼は同大の副学長にも就任していた。京都工芸繊維大では、ドイツなど国外から研究者を招く新しい学内機構が設置されていたが、その広報部門を担う人物は建築専門誌の元編集者だった。