その中で、安倍昭恵夫人の活躍ぶりは、欧米のファーストレディ並みの華やかさだった。ここでは、昭恵夫人について論じる前に、アメリカのファーストレディの歴史を少し見てみよう。

 「ファーストレディは立場であって仕事ではない」と大統領候補になる以前のヒラリー・クリントンは自著で述べている。「その役割は象徴的なものでアメリカ婦人という概念の理想像であり神話的な像を表徴することを期待されてきた」(「リビング・ヒストリー」ヒラリー・ロダム・クリントン自伝より)。
 それはまた国家に対する無償・無休の奉仕活動のようなものであり、ヘアスタイルから子供の学校選びまで、一挙一動が国民に厳しくチェックされる精神的負担の重みに耐えかねて、依存症等に追い込まれた気の毒なケースも稀ではない。そうした難しい状況で高い評価を受ける大統領夫人たちには二つのタイプがある。

 「建国の母」として知られるマーサ・ワシントン(初代)に代表される「良妻賢母」型は夫の活動を全面的に支え、安心できる家庭を築くことでアメリカ主婦の理想として好感を持たれた。クールな「ベストマザー」のエディス・ルーズベルト(26代)、サイレント・カルといわれる寡黙な夫を「サンシャイン」と呼ばれた明るさで支えたグレイス・クーリッジ(30代)、古き良きアメリカのホームドラマのように陽気なメイミー・アイゼンハワー(34代)、良家の奥様的雰囲気のローラ・ブッシュ(43代)などがこの中に入るだろう。

 ローラの姑にあたるバーバラ・ブッシュも白髪や顔のしわを隠さず「アメリカのお祖母ちゃん」というキャラクターで人気を得ていた。ただし控え目な日本的内助の功とは異なり、積極的に自分や家族のアピールをすることも重要なポイントになる。

 また、社会的な貢献に結びつく独自のライフワークを持つことが近年、必要条件になっている。しかし、家庭生活が犠牲になるほど本格的な活動は逆に非難の対象になってしまうのでほどほどが大事なようである。保守層の受けが良いタイプなので共和党の夫人が多い。

 リベラル層に評価されるのは、自らの魅力や主体的行動で国民を惹きつけ夫のイメージアップに貢献するカリスマ型である。先進的な見識で女性史に名を記した知性的なアビゲイル・アダムズ(2代)、優秀な個人秘書として夫の業績に多大な貢献を果たしたサラ・ポーク(11代)、「ニュー・ウーマン」と歓迎されたルーシー・ヘイズ(19代)、人権運動のエレノア・ルーズベルト(32代)らの名前が挙げられる。

 しかし、その美貌や貴族的なライフスタイルゆえにジャクリーン・ケネディ(35代)がこのタイプでは他を圧倒している。また社交の天才でファッションリーダーでもあったドリー・マディソン(4代)は「カリスマ的内助の功」を発揮してどちらの基準でもトップクラスの位置を占め「皇太后」と尊敬されたようにやはり特別な存在である。

 ところで、冒頭のヒラリー・クリントンをファーストレディとして評価するのは難しい。彼女なりに努力もしていたし(一期目はカリスマ、二期目は内助の功的に)、標準以上の成果もあげていたが、いかにも収まりが悪いので「ファースト・パートナー」「スーパー・スパウズ(配偶者)」などとマスコミも呼び方に苦労した。