古内義明(スポーツジャーナリスト)

 「二刀流」大谷翔平への期待は、メジャーリーグの野球関係者でも高いものがあります。投打両方にわたり高いポテンシャルを持つ彼を「ベーブ・ルース」という、メジャー100年以上の歴史の中で「神格化」されている選手になぞらえるメディアも非常に多いです。
2016年12月、7000万円アップの推定年俸2億7000万円でサインした大谷翔平(撮影・高橋茂夫)
2016年12月、7000万円アップの推定年俸2億7000万円でサインした大谷翔平(撮影・高橋茂夫)
 日本のメディアでも2014年、彼が2年目のシーズンに「10勝10本塁打」を達成したことでルース以来の偉業だと報じましたが、何も日本だけの評価に留まらないわけです。米国メディアが「野球の神様」の名前を出すということはそれだけ魅力的な選手であり、大谷本人の価値を見事に表していると言えます。

 米国ではディオン・サンダースやボー・ジャクソンがメジャーリーグとNFLという最高峰で大活躍したように、夏と冬のスポーツの二刀流アスリートでさえ稀(まれ)であり、一つの競技の中で投手と野手を両立させるなんて、米国人でさえそんな発想をする人はいません。そんな選手が日本にいるということが何より驚きで、過去にルースが成し遂げたことをやろうとしている日本人に「ルース」という言葉で形容したことに意義があるんです。

 よく大谷が大成するには投手に絞った方がいいとか、打者での可能性が見てみたいなどと、二刀流を一本に絞るべきかどうかという議論になりますよね。確かに投手一本、野手一本で考えれば、それぞれに長所、短所があるでしょうし、アラを探せば出てくるかもしれません。

 でも、メジャーリーグでは大谷はそのような見方以前に、投打双方ともメジャーリーグの中でもトップ級の実力という評価を与えられているわけです。投打双方ともに高いレベルで通用する選手というのは、メジャーリーグでも有り得ないと思われていたわけですから。たとえメジャーリーグのドラフト1位指名選手でもあくまで投手、野手のいずれかでの評価です。投打どちらがいいのかを議論できる選手は、世界にいま大谷一人しかいませんから、どちらかを選ぶにしても贅沢な悩みですね。

 大谷は花巻東高時代に160キロの速球を投げ、高校通算56本塁打をマークしていましたから、最高の素材であることはプロのスカウトなら誰が見ても分かっていたことです。私が考える大谷の凄いところは、なによりメジャー3球団のスカウトが来日して花巻まで行ったことが、日本の高校野球がメジャーリーグの視野に入ったという意味で大きなターニングポイントになったと思います。野球のマーケットとして捉えてみると、メジャーリーグ30球団と日本のプロ野球12球団の計42チームに入れる可能性がある選手がいたこと自体、日本人の多くが驚きと嬉しさを感じたのではないでしょうか。

 たとえ、メジャーに憧れても普通の能力の高校生ではスカウトが見に来ることは当然ありません。いまメジャーで活躍するプレーヤーでも、それまでならNPB(日本野球機構)のチームに入ってFA(フリーエージェント)やポスティングシステムを利用して移籍してきましたが、その常識を打ち破って先鞭をつけた唯一の選手なんです。もし日本ハムの入団を拒否して、メジャー一本で行くと改めて表明していれば「大谷詣」をした球団は3球団どころではなかったでしょうね。でも大谷が登場したことで、日本の高校野球で才能が開花すれば、マイナーリーグやメジャーリーグに進む可能性を見出すことができたのは大きいと言えます。