大谷の凄さはこの肩甲骨周りの筋肉が実によく動いていることにある。「図1」は大谷が160キロを投球した時の「肩関節外旋角度」の最大値を示したものである。肩関節外旋角度とはいわゆる投球のしなりを示すものであり、股関節と肩関節を結ぶ線と前腕の線がなす角度によって示される。
 投球時のしなりが大きいと、なぜ球が速くなるかというと、しなりが大きくなればボールを加速するための距離を大きくすることできるからである。肩関節外旋角度の最大値について調べると、2013年では150キロの投球で112度前後であったのに対し、2014年に160キロを投げた時には、おおよそではあるが角度が132度にも達していた。この比類なき大谷投手の値は肩周りの「柔軟性」が160キロを生み出す原動力になっていると言えよう。

 いま多くの人々の関心と言えば、大谷が今後「夢の170キロ」を出すことができるのかにあると思う。

 筆者の答えは「可能」でも「?(クエスチョン)」である。「可能」な理由として、169キロを記録した米メジャーの最速左腕、A・チャップマンと大谷を比較しても、先述した最大外旋角度が極めて近いからである。けれども、大谷が165キロの投球が打者に当てられたように、速いからといって、打者がかすりもしないのかと言えばそうではない。「速い球を投げる」=「打者をアウトに取る、勝てる」投手にならないところが野球の難しさである。

 その理由を示すと、投手が速い球を投げようとすると腕をしならせるため体幹を腕より先行させて胸を張る。そのため、早く体を回旋させる必要があり、打者とは早く正対することになる。さらに、大柄な投手であればあるほど腕が人より遠くを回るため、リリースを投球方向に向けるには右投手であれば体幹自体を一塁側に早めに倒す必要がある。

 メジャーリーグの大柄な右投手が投球後一塁方向へ倒れるのをよく見かけるが、それは体幹を倒さないと腕が捕手方向に振れないためである。そのため、大柄な投手が速い球を投げようとするときの問題点として、ボールが早く打者に見えてしまうことがある。

 早くボールが見えるということは、打者は投球の軌道予測がしやすくなり、たとえ速いボールが来たとしてもバットに当たる確率が上がってくる。そうであるならば、多少ボールの速度を遅くしても打者に投球の軌道を悟られないようにする。いわゆる球の出どころの見にくい投手の方が「勝てる」投手になることができる。

 大谷が170キロを投げることは「可能」であるが「?」としたのは、それを目指すべきかどうかという点では疑問だからである。チャップマンがそうであるように、大谷がクローザーとして「1イニング」だけ投げるのであれば、圧倒するような剛速球で並み居る打者を抑えることもできるだろう。クロ―ザーとしてであれば、より速い球を追求していく方が良いと思うが、先発完投型で毎試合ごと100球前後を投げるのであれば、打者をより効率的に打ち取るような投げ方をした方が良いと、筆者は断言する。