その考えもあったのだろう、2016年のシーズンではステップ幅を短くし、シーズン途中から投げる位置を高くして、オーバースローに近いスタイルで投げるようになった。それは150キロ中盤くらいのストレートとフォークボールが主体のピッチングである。実際に打席に立っていないので分からないが、このフォームの方が幾分、打者にボールが見えるのが遅れるはずである。比較的動作の効率も良く、身体に負担が少ない投げ方になっている。

 シーズン終盤、指の皮がむけるアクシデントもあって、シーズンすべてにおいて活躍できたわけではないが、150キロ中盤のストレートをコンスタントに無理なく投げられるのは日本人投手ではめったにお目にかかれない。大谷にとっては、前述したようなスタイルで投げ続けていれば、もっと「勝てる投手」にはなれる。もちろん、「夢の170キロ」は筆者も期待しているが、「勝てる投手」とのジレンマはこれからも続くだろう。

 一方、打者としての大谷の入団当初から優れている点といえば、高卒選手ではなかなかできない「インサイド・アウトの体に巻き付くようなスイング」がすでに身に着いていたところである。

 なぜ、インサイド・アウトのスイングが優れているかというと、基本的にスイング・スピードを大きくするためには、バット・ヘッドを加速させる距離を長くする必要がある。しかし、投球の判断など時間に制約のあるバッティングでは大きな弧を描くような距離の長いスイングは不利であり、なるべく短時間で加速させる必要がある。

 この加速とスイング時間の矛盾を克服できるのがグリップを先行させて後からヘッドが加速させるようにするインサイド・アウトのスイングである。このスイングによって、短時間で効率よくヘッドの加速距離を取ることができ、スイングスピードを大きくすることが可能となる。

 このインサイド・アウトのスイングを実現させるために打者の動作として必要なのが、投手から見て後ろにある腕の「肘のたたみ」、左打者の大谷で言えば,左肘先をスイング開始時にへそにつけるようにする動作である。しかし、この動作が難しいのは肘をへそにつけるような動作をすればするほど、同時に肩が落ちてしまうことである。

 肩が落ちるとバット・ヘッドも一緒に落ちてしまう。この一旦落ちてしまってからバット・ヘッドを加速させるのは重力に逆らうことになり、より大きなパワーが必要となる。この結果、スイング速度の低下を招いてしまう。そこで肩を落とさず、肘をたたむには肩甲骨周りの筋群のしなやかな動きが必要で、投手に必要な肩周りの柔軟性が打者、大谷にも活かされていると言えよう。

 さらに、彼の年を追うごとの変化についてみてみると、「図2」は2013年と2016年のバックスイングからトップにかけての動きを示したものである。そこから、大谷の「変化」を挙げるとするならば、16年では13年に比べて、トップ時においてバットを後方(捕手側)に約20センチ大きく引くことができている(大きいバックスイング)。つまり、16年の方がより大きく肩から腰にかけての「ねじり」を作ることができている点にある。
 大きなバックスイングを取ることにより、身体の回転半径が大きくなり、フォワードスイング時の身体の回転力が大きくなる。バックスイングを大きく取ることで、身体から遠いボール(アウトコース)においてもスイングスピードを落とすことなくバットが振れており、その結果左方向へのホームラン増大につながっている。