野球界でも、手術に対する抵抗感は根強くあった。「投手は一度肘や肩にメスを入れたら、投手生命を失う」という定説は深く信じられてきた。それを打破し、新たな歴史を作ったのが「トミー・ジョン手術」の名で知られる、ドジャースのエース(当時)、トミー・ジョンと執刀した故ジョーブ博士。その後、数えき多くの投手が手術を受け、復帰した。

 日本球界では村田兆治がジョーブ博士の手術を受けて復活し、引退後も140キロを超える速球を投げてその手術の成果を証明した形だ。このため、今となっては、「手術に抵抗がある」という考え方そのものが「もう古い」とされ、大谷のように手術にすぐ踏み切らない考えを疑問視する方が大勢だ。が、この機会に、手術への盲信を考え直しても良いのではないか。大谷はそういうメッセージを発信する形になっているのではないかと私は感じる。

オープン戦最終戦日本ハム対ヤクルト。三回、日本ハム・大谷翔平は三邪飛=3月26日、札幌市・札幌ドーム
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 海の向こうでは、一昨年、田中将大(ヤンキース)が肘痛で戦列を離れた。当然のように球団からは手術を勧められたが、田中は手術をしなかった。そして昨季は見事に復活、今季もまた開幕投手の栄誉を担う勢いだ。ダルビッシュ有は手術し、復帰した。昨季ソフトバンクに復帰し15勝を挙げた和田毅も、アメリカに渡ってすぐトミー・ジョン手術を受けた経験の持ち主だ。このように、両方の選択がある。

 しかも、手術は絶対ではなく、手術後活躍できなかった選手、わずかな期間で引退に追い込まれた例も少なくない。

 私が重要だと思うのは、選手の心技体を総合的にサポートするスペシャリストの存在だ。日本人の身体を熟知し、短期中期長期、あらゆる展望を踏まえ、選手とともに歩むべき道を助言できる存在は少ない。選手たちはそうした存在を求めて、これはと思う医師やトレーナーに身も心も託す例がここ数年は増えている。

 一時的にはうまくはまって成果が出る場合もあるが、大きな観点を持って、その選手の潜在的な素質を飛躍的に触発した例は少ない。医師は西洋医学を、ストレングスコーチは筋力を、日本的なトレーナーはケガの治療を専門にするからどうしてもその観点に重きを置いてしまう。

 かつて有名選手の信頼を受けて多くのスポーツ選手や芸能人たちをサポートしていた有名医師は、結局多くのクライアントを薬物依存にしてしまった。薬や手術への盲信は一方でそのような懸念もある。

 大切なのは、この痛みから何を学ぶか、何が変わるか。実は、ごまかしではなく、右足の痛みが出ないようにする、正しい身体の使い方、力に頼らない左足の上げ方、重心移動の方法がある可能性もある。それが身につけられたら、ケガの巧妙どころか、「162キロの速球を投げても打者に当てられる」という、大谷の最大の課題に対する答えが見つかり、「消えて見えない」ような速球を投げる投手にさらに変貌するきっかけになるだろう。果たして、大谷がそういう志を持って、ケガと向き合っているのかどうか。助言者たちの力量も含め、このケガを乗り越える過程には大きな意味がある。