武田邦彦(中部大学特任教授)
 
 私は騒動になった東京MXテレビの『ニュース女子』に出演していた。その日に番組で沖縄のデモ問題が取り上げられることは知っていたが、内容は知らなかった。それは番組に出演していた司会者や聞き手の女性、そして私たちコメントをする男性のいずれもが同じだった。

 沖縄のコーナーが始まり、LEDのパネルに映し出された映像で最も印象的だったのが政府の職員に対するデモの人たちの暴力だった。30歳から40歳ぐらいとみられる数人の無抵抗な役人に対して、デモの人が小突き回し、羽交い締めにし、頭をかきむしる…。人間の尊厳をも傷つける暴力をやりたい放題しているのに、若い役人はジッとこらえて無抵抗だったのである。

 「これが本当に日本?  なぜデモの人は逮捕されないの?」

 私は目を疑った。好ましくないことだが、時にデモ隊が警官隊と衝突することはある。警察隊がデモ隊を規制しようとしたときにデモ隊がそれに反発して暴力が発生する。もし、日本に選挙制度がなく、官憲が不意に国民を逮捕するような国であれば、デモ隊が暴力に訴えることもあり得るだろう。しかし、日本の「権力」というのは国民が選挙で選んだ政府であり、いわば「国民=権力」である。それを監視するメディアだって多すぎるほどある。

ヘリパッド移設工事現場近くで反対派(手前)が激しい抗議活動を展開。奥は道路中央に置かれた反対派の車両を移動させる警察官=9月15日、沖縄県東村
ヘリパッド移設工事現場近くで反対派(手前)が激しい抗議活動を展開。奥は道路中央に置かれた反対派の車両を移動させる警察官=9月15日、沖縄県東村
 しかし、私が見たのは「数人」の無抵抗の若い役人を小突き回す「多数」のデモの人たちなのだ。デモ隊が示威行為をするのに暴力を振るう必然性は全くないし、頭をかきむしられる若い役人が人格を傷つけられカッとして反撃に出ることを期待して暴力を振るっているようにも見える。

 これは酷い。実に卑劣なデモ隊だ。

 私は、こんなことが沖縄で起こっていることをそれまで知らなかった。何のための新聞、何のためのテレビ、何のための「表現の自由」なのか。私は沖縄でずっと仕事をしてきたし、友人も多い。それなのになぜ、私は今までこんなに酷い沖縄のデモのことを知らなかったのだろうか。

 ところが、事態は意外な方向に発展した。こともあろうに暴力を振るっていたデモの後ろ盾だった「のりこえねっと」という人権団体が番組の内容にいちゃもんをつけてきたのである。「盗人猛々しい」という言葉があるが、暴力を振るった側が「デマ、ヘイト、差別」などと事実とはまったく違う理由を挙げて番組批判を繰り返した。その後記者会見も行い、そこには多くのメディアが集まった。