「40歳を過ぎて女に芽生えた…」私が見たセックスレス夫婦の現実

『亀山早苗』

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亀山早苗(フリーライター)

 日本家族計画協会の調査によると、2016年の夫婦におけるセックスレスの割合は47・2%に及ぶという。12年前の調査では31・9%だったのだから、いかにセックスレスが多くなっているかが分かる。

 セックスレスになっている理由は、男性が「仕事で疲れている」が最も多く、21・3%、女性は「面倒くさい」が1位で23・8%。仕事で疲れ切った男と面倒だと思っている女の間で、セックスという行為が起こらないのは当然だろう。

 では独身者はどうなのだろう。2015年の統計では、34歳の男性で3割、女性で4割が「セックス未体験」という結果もある。つまり、独身者も「していない」のである。
 「セックスレス」という言葉は1991年、精神科医の阿部輝夫さんが順天堂大学に勤務していたころに、セックスしない夫婦が増加していることに着目、「結婚して同居しているにもかかわらず、身体疾患や特別な事情がないケースをセックスレス」という定義を試みたところから始まっている。その後、94年に日本性科学会によって、「特別な事情が認められないにもかかわらず、カップルの合意した性交あるいはセクシャルコンタクトが1カ月以上なく、その後も長期にわたることが予想された場合」をセックスレスと定義された。

 こうやって「定義」づけされた言葉ができると、そこにあてはまる人たちは一気に増える。それまで自覚していなかったため、表面化してくるのである。当時はセックスレスというと、「夫に女としてみられていない妻」というイメージが強かった。つまり、セックスを拒むのは男だという認識が強かったのだ。だが、その後この言葉が浸透してくると、実際は「妻が夫を拒んでいるケース」も多々あることが分かってきた。

 夫婦ともにセックスしたくないなら、何の問題もない。だが、どちらか一方が「したい」と思っている場合、そしてセックスしたいのに満たされないために夫婦仲が悪くなっていく場合こそが問題なのである。
女性たちは我慢しない

 以前、セックスレスの既婚女性たちに話を聞いて書籍としてまとめたことがある。当初は、セックスレスになっている夫をなんとかその気にさせようとしたが結局ダメで、最終的には「我慢し続けている」女性が多いのではないかと予想したのだが、実際に取材を重ねてみると、女性たちは「我慢し続けたりはしない」という意外な傾向が顕著だったのである。

 そのうちの一人、ケイコさん(45歳)のケースをみてみよう。彼女は結婚して18年、下の子が生まれてから13年ほどセックスレスだ。

 「子どもが小さいうちは手がかかってセックスしたいなんて思わなかったけど、40歳を過ぎてパートでもう一度働き始めて、なんとなく気持ちが変わっていったんです」

 ママ友以外の女性たちとの会話も増え、夫以外の社会で働く男性たちとも接するようになった。なにより自分自身に目が向いた。

 「ヘンな言い方ですが、『女』としての自分がもう一度芽生えたというか…」

 そんなとき職場の同僚である男性と急接近した。男女が同じ空間にいるところでは恋愛感情は生まれてしまうものである。久しぶりに男性を好きになる気持ちがわき起こり、自分では止めようがなかったという。

 「その時点では10年ほどセックスレスでしたから、いざセックスとなったときは怖かった。彼にそう言ったら、すごく優しくしてくれて…。挿入された瞬間、『ああ、私、まだ女として大丈夫だったんだ』とうれしくて泣けてきました。セックスレスであることを大したことじゃないと自分に言い聞かせてきたのかもしれない。実はしたかったんだと、そのとき初めて思ったんです」

 ケイコさんのような女性は案外多い。セックスレスによって自分の気持ちが満たされていないことに、セックスをしてみて初めて気づくのだ。本当は「したい」と思っていたことに。つまり、女性たちは自分の性欲を認識していないことが少なくないのだろう。
なんのためのセックスなのか

 一方で、30歳になろうとする男性から「来月、4年間付き合った彼女と結婚するのだが、ここ3年くらい彼女とはセックスレス」という話を聞いたことがある。思わず、それで結婚して大丈夫なのかと問うと、彼は平然と「子作りセックスはしますよ」と言った。

 家庭を一緒に作ると決めた女性に対しては、男は急速に性的魅力を感じなくなっていくのだろうか。子作りセックスはしても、快感を得るための、あるいはコミュニケーションとしてのセックスはしなくていいと思うのだろうか。

 長年連れ添った夫婦がそういう心境になるならともかく、これから結婚しようという人がすでに「子作りセックス」と「快楽セックス」を分けていることに愕然(がくぜん)とした。彼いわく、快楽を得るためのセックスは、妻となる人とはできないというのだ。結婚を「神聖視」しすぎているのか、あるいは快楽を得ることにどこか罪悪感を覚えているのか。
 さらにその一方で、今の50代、60代の男性たちは「恋をしたい」「ステキなセックスをしたい」と真顔で言ったりする。置き忘れてきた恋愛感情や、お互いに相手への温かい気持ちをもって抱き合うことへの憧れがあるように思える。だが、妻はそれには応えてくれない。今さら誘うにも照れがあってできない。

 セックスレス社会がヤバイとは思わない。「セックスレス=少子化」ととらえられがちだが、そもそも子どもを産むか産まないかは個人の生き方における選択肢の一つだ。したくない人はしなければいいし、したい人はすればいい。

 ただ、繰り返しになるが、カップルとして考えたとき、片方がしたくて片方がしたくないのが一番の問題なのである。その場合は、やはり正面切って話し合うしかないのだろう。

 「うちも話し合ったんですよね。私がしたくて夫がしたくないと言うから、しないなら外でしてきていいかと尋ねたんです。そうしたら、それはイヤだ、マスターベーションで我慢してほしい、と。それは通らない。私がしたいのはセックスであってマスターベーションではないと、はっきり言いました」

 そう話してくれたのは、40歳になったばかりのエリコさん。ちょうど元カレと再会したばかり。このままだとセックスの関係になりそうなのだという。

 「もちろん夫には内緒にしますが、おそらく今度、元カレと会ったらしちゃうと思います」

 エリコさんはそう言った。男たちは女性の性欲を甘く見過ぎているのではないだろうか。女はセックスしなくても平気なのだと思いすぎてはいないだろうか。

 妻に「セックスしたくないから、外でしてきて」と言われた夫もいるのだが、彼は風俗が苦手。本気で恋愛したら家庭を壊すのが目に見えているので、まだ高校生と中学生がいる身では自重しなければならないとつぶやいていた。

 セックスレス社会はヤバくなくても、セックスレスカップルはヤバイのだ。
互いに優しい気持ちになるために

 ところが最近、不思議なことをあちこちで聞くようになった。妻が不倫をした場合、結果論ではあるが、家庭がうまくいくというのだ。たまたま夫とはセックスレス、夫はする気がない。だが妻はしたいと思っていた。そんなとき妻が外で恋に落ちた。妻は夫に悪いとは思っていないが、どこかに若干の後ろめたさはある。相手の男性も既婚者だから、いろいろ話すうちに男の気持ちも少しはわかるようになる。夫に対して寛容になるのだ。妻に優しくされた夫もまた、妻を違う目で見る瞬間が生まれていく。

 結婚記念日に妻をデートに誘ってみた。久しぶりに外で待ち合わせ、一緒に予約したレストランへ。どこかぎこちなかったが、妻とのデートも悪くないと夫は思う。そしてそんなことを計画してくれた夫に、妻も温かい気持ちになる。
 別の男に「女」として認められていることが、彼女にとって自信となり、夫に対しても余裕をもって接することができるのだろう。こんなケースがこのごろ多々あるのだ。今どきの妻たちは家庭を壊す気はなく、恋と家庭を両立できてしまう。女性は浮気はできないといわれていたが、それは男たちの希望的観測だったのかもしれない。誰にもバレずに婚外恋愛ができるのは女性の方である。
 
 セックスしたくない人はしなければいいとは思うが、相手がいる場合、なぜしたくないのかを自問自答してみる必要はあるかもしれない。相手が望むことなら、たとえ多少面倒であっても疲れていても、寄り添ってみてもいいのではないか。特に夫婦の場合、この先も長く一緒にいる関係なのだから。

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