集団的自衛権、秘密保護法…実際の運用について国民に問う絶好の機会だ

青山繁晴(独立総合研究所社長、作家)
1952年、神戸市生まれ。独立総合研究所社長兼首席研究員、作家、国家戦略アナリスト。共同通信記者、三菱総合研究所研究員を経て独立総合研究所を創立。文科省参与(日本原子力研究開発機構改革本部委員)、国家安全保障会議の創設に関する有識者会議議員、経産相の諮問機関・総合資源エネルギー調査会専門委員(核セキュリティ/エネルギー安保担当)、海上保安庁の政策アドバイザー、近畿大学経済学部客員教授などを務める。近著は『死ぬ理由、生きる理由-英霊の渇く島に問う-』(ワニ・プラス)、ロングセラーの『ぼくらの祖国』(扶桑社)など。


 まず解散に大義がないというネガティブキャンペーンが張られていることに憤りを覚えている。

 消費再増税については民主党が突然凍結を表明したため、実はそれほどの争点にはならなくなっているが、前回の総選挙から2年間、安倍内閣が何をしてきたかというと、集団的自衛権の行使容認の閣議決定であり、その前には特定秘密保護法の成立もさせてきた。私はいずれも賛成の立場で国会で参考人として証言してきたが非常に強い反対もあって、そのとき例えば朝日新聞などはしきりに「国民の声を聞け」と言っていた。

 現在その2つの大きなイシューはどうなっているかというと、集団的自衛権は閣議決定しただけであり、閣議決定しただけで何でも出来るとなると中国や北朝鮮、韓国と同じになってしまう。日本では民主国家だから必ず法改正をしなくてはならない。その法改正は来年1月から開く通常国会で時間をかけて審議され、あるいは特定秘密保護法は12月10日施行になるので、本格運用は来年からになる。まさしくこの2年間に決めた重大な事を実際にどのように運用するかを国民に問う絶好の機会であるから、これほど絶妙なタイミングの総選挙もないと思っている。

 それなのに朝日新聞や多くの政治評論家が、新聞・テレビのネガティブキャンペーンに迎合して、例えば選挙に600~700億円かかるからもったいないと言っているが、われわれ国民は本当に弾劾すべき発言だと思っている。われわれのような本物の民主国家、法治国家においては、国民の声を聞くことほど大事なことはないから、全国津々浦々の国民がきちんとつつがなく票を投じて意見を表明できるように予算をかけるのは当たり前のことであり、年間100兆円になろうかという予算を使っている国が2年に1度の総選挙で700億円使うことはいったいこれは無駄なことだろうか。600~700億円という数字を言われて少ないと思う感覚の人は庶民にはいない。その素朴な感情を悪辣にも利用して、この「もったいない」という世論を作っている新聞・テレビ・政治評論家は本当に許すべきではないと思っている。

 その上で安倍総理や与党の側も、消費再増税を延期することについては民主党が豹変したのでもう大きな争点ではない。したがって「アベノミクス」が上手くいっているかだけではなくて、集団的自衛権の法改正や、あるいは特定秘密保護法の施行に向けて堂々とそれを争点にして、ゆめ逃げることがないように「今こそ国民に意見を聞きます」ということを鮮明にして戦ってほしい。

 まずいま、総選挙をやる理由がないという全くおかしなネガティブキャンペーンでほぼ主要メディアがそろっている。新聞でいうと産経・読売以外はそうだし、テレビはNHKも含めて全部がそう流れている。日本国民、有権者はとても賢明で、特に衆院選ではずっと「振り子の原理」を働かせてきた。そうすると2012年12月選挙では自民党が大勝しているわけだから、それが今回争点や大義がないなら振り子だけを振ろうということで、理由のないまま今の惨憺たる野党が勝つようなことになりうる。そうなれば安倍政権がどうのこうのではなく、アベノミクスが今後運用できなくなり、デフレ脱却の処方箋が書けないということになる。日本が先んじてデフレ脱却の処方箋が書けないとなると世界経済は今後デフレに対応できないということになる。消費増税だけではなく金融緩和や成長戦略含めて全部無効というような間違った意思表示になることを心配している。

 それから沖縄県知事選の結果も含めて、安全保障や外交についてはやたらにブレるんではなくて、いわば国家の意思として共通した土台があってブレは最低限にとどめるというのは世界の常識だが、先ほど言ったように絶妙なタイミングだからこそバラバラの野党に好都合の結果になる、つまり集団的自衛権も閣議決定で終わり、特定秘密保護法も実際には運用出来ずにいままでと変わりがない、スパイ防止法の成立の入口にもならないというような一気に悪い流れになることを大変懸念している。

 また「大義なき解散」と言われることで、投票率が落ちることも懸念しなければならない。その意味でマスメディアの責任は本当に重大で、投票に行くなと言わんばかりのネガティブキャンペーンというのは報道ではなくただのキャンペーンだ。そういうことにわれわれ主権者自身は新聞やテレビのニュースに触れながら、気がつかなければいけない。


増税は景気回復を経て期限を決めてやるのが正解だ

北沢栄(元参院行政監視委員会調査員、ジャーナリスト)
1942
1942年東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。共同通信社経済部、ニューヨーク特派員などを経て、フリーのジャーナリスト。


 安倍首相は消費増税後、景気の予想以上の悪化を導いた。GDPの速報値結果は事前に官邸に上がってて、こりゃ相当悪いってことに気付いてもうはっきり決断しなきゃいけないと。このままいくとアベノミクスそのものが金融緩和の限界でもう成長戦略しかない、ということになると時間かかる。今支持率の高いうちに今討って出れば勝てるというふうに踏んで、あの唐突にも思える解散に踏み切ったと私はみている。

 国内景気は相当悪い。税務当局によると、赤字の中小企業は7割強。結局、トヨタなど輸出関連や大手の上場企業はいいが、中小は下請け的立場で買いたたかれたりして、輸出関連でもばらつきがある。中小と大手の格差拡大に加え、輸出関連はいいが国内のドメスティック産業は悪いという状況。「これはとてもじゃないが1年半後に増税やると、もう」ってことを予知して行動に出た。

 消費増税については、成長しなければ何にも意味がないので先送りすべき。そのぐらい実態は悪い。増税は景気回復を経てやるべきで、1年半とかそのまんま受け身ではまた悪くなったりするから、やはり期限を決めてやるのが正解だ。

 1年半そのものはいい。ただその間に成長戦略を打つ。中小企業ってのはお山でいえば山腹。山のすそからそこを上がって来ないと駄目。GDPの6割が個人消費で、個人消費を支えている一般のサラリーマンってのが全国の6割ぐらい。そのうちの3分の1以上が非正規雇用だ。女性労働力って政権は言いますけど、半分以上は非正規雇用なんです。だから女性をいくらやったとしても収入が大体200万円以下が大半ですから、決定的な支えや成長にはつながりにくい。そういう実態も段々分かってきて、ここでとりあえず増税は1年半先送りだ、とスケジュール化したんだとみている。だいたい1年じゃ準備的にも成長の期間としても短いから1年半にして、あんまり延ばすと海外の反響とかもあったり、財政的な不安も出てくる。1年半というのは適当なところだと思う。

 で、その間に何をするか。成長軌道に乗っけるのは、ずばり言って難しい。なぜかと言うと、安倍政権は官僚依存なんです。一言で言うと機構が無数に出来てて、そこに予算がどんどん配分されて彼らは使わないで積立金とかの形で貯めてるわけ。たとえば原発の問題でも現地の方に流れない。国土強靭化法といって全国ベースで流れちゃう。独立行政法人を通じてやることが多い。そういうメカニズムがあるから官僚依存の政権だと規制緩和なんか進みにくいから、僕は難しいと思う。規制緩和は今も全然進んでないでしょ。


庶民の生活は崖っぷち。選挙、消費増税なんて冗談じゃない

荻原博子(経済ジャーナリスト)
1954年、長野県生まれ。大学卒業後、経済評論家の亀岡太郎氏に師事。亀岡太郎取材班で、日刊ゲンダイ、大阪新聞、月刊セールス(ダイヤモンド社)などのビジネス記事を担当。 1982年にルポライターを志して独立し。1983年、満州開拓者を取材して「満州・浅間開拓の記」を脱稿するも、一冊でルポライターを断念。フリーの経済ジャーナリストとしての活動を始める。ダイヤモンド社、実業之日本社、日本実業出版社などで、ベンチャー企業などを連載。1988年、マガジンハウス“Hanako”創刊と同時に、女性のためのマネー・ビジネス記事の連載を始める。難しい経済と複雑なお金の仕組みを、わかりやすく解説。地価下落、マンション価格の下落を早くから予測。掛け捨て生命保険の活用を提唱。デフレ経済の長期化を予測し、ローンの返済の必要性を説き続ける。


 選挙なんて冗談じゃないですよ。選挙に使うお金があったら、その分を財政に回して、増税なんかするなという思いです。

 いま、日本経済は落ちているんです。消費増税を1年半先延ばししたって、景気が良くなるという確証もない。消費増税は白紙に戻すべきでしょう。白紙に戻して、どうやって経済を成長させていくのか成長戦略をしっかり示し、景気をよくして、それからの話じゃないですか。

 一番困るのは、家計なんです。物の値段は上がるは、税金は上がるはで、さらに実質の賃金は15カ月連続で下がっています。毎日の生活が大変で財布のひもを締めている状態。いまは円安が進んで、11月17日の円が116円。先月は106円だったので1カ月で10円も円安が進んでいます。物は海外から注文してから輸送して、スーパーなどの店頭に並ぶまでに時間がかかるので、円安の影響があらわれるのは、クリスマスやお正月といった、いちばん出費がかさむ時期。もうやっていけないですよ。

 「アベノミクス失敗でした。ごめんなさい」って謝らなくてもいいから、消費増税はやめるということにして、補正予算を組むなり、有効な手段をとらないと。本当に選挙なんてやっている場合じゃない、庶民の生活は崖っぷちなんです。もうちょっと庶民の生活を考えてくれと安倍首相には言いたいです。


解散には賛成できない。だがウーマノミクスには期待している

上昌広(東大医科学研究所特任教授)
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1968年10月3日生まれ。93年東大医学部卒。97年同大学院修了。医学博士。虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床研究に従事。05年より東大医科研探索医療ヒューマンネットワークシステム(現 先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。帝京大学医療情報システム研究センター客員教授、周産期医療の崩壊をくい止める会事務局長、現場からの医療改革推進協議会事務局長を務める。

 今回の解散には驚いた。私は賛成できない。解散により、現行の政策が滞ってしまうことは避けられないからだ。
 安倍政権が掲げるウーマノミクスには期待している。人口減に直面する我が国で、女性の活用は喫緊の課題だからだ。その主旨に賛成する。では、具体的にどうすればいいのだろう。今こそ、真剣に議論すべきだ。

 私は看護師の育成強化を提案したい。それは、看護師の育成が医療だけでなく、地域の雇用や教育レベルの向上にも寄与するからだ。

 まず、我が国の看護師は不足していることを強調したい。特に関東は悲惨だ。平成24年現在の人口10万人あたりの就業看護師数(准看護師を含む)は、西日本(九州・四国・中国地方)は1498人、関東は806人と倍以上の差がある。

 このままでは、関東の医療は崩壊する。現に既に各地で、看護師不足による病床閉鎖が相次いでいる。

 一方で、看護師の給与は比較的高い(平均年収470万円)。日本のサラリーマンの平均年収より上だ。しかも人数が多い(就労看護師は137万人)。地域の女性の雇用に与える影響は大きい。

 地方都市で病院は主要な「産業」だ。看護師が充足し、規模を拡大させれば、波及効果は大きい。ちなみに、全国でもっとも医師や看護師が少ない埼玉県の有効求人倍率は、0.76(6月現在)であることは示唆に富む。上田清司知事は、会社の本社が移転してきていることを県政の成功例として強調しているが、それだけでは不十分なようだ。

 看護師の育成は大学教育にも影響する。少子化が進み、多くの大学は深刻な経営難に喘いでいる。例外が看護学部・学科だ。90年代以降、各地で新設、あるいは短大・専門学校からの改組が相次いでいる。平成元年に、11大学(関東に5)しかなかった看護学部・学科は、現在では228大学(関東に63)に設置されている。こんなに養成数を増やしたのに、定員割れはしない。

 なぜ、看護学部・学科は人気なのだろうか。それは、国家資格をとり、確実に就職できるからだ。確かに、「粗製濫造」と批判する人は少なくない。偏差値が40の大学さえある。「偏差値40代で、確実に就職でき、年収500万円が期待できるのは看護学部くらいだ」と皮肉る教育関係者もいる。

 しかしながら、状況は変わってきている。一流大学の参入が続いているのだ。関東では慶応、上智大学、関西では甲南女子大に看護学部が出来た。さらに来年から同志社女子大学も立ち上げる。このあたりがでてくると、状況は変わる。

 では、看護師養成数は、どこまで増やすべきだろうか。実は、この程度の増設では関東の看護師不足は解決しない。地域の看護師の数は、基本的に地元での養成数と比例するからだ。医師以上に「地産地消」の側面が強い。平成24年現在、人口10万人あたりの看護師養成数は西日本が85人であるのに対し、関東は43人に過ぎない。西日本で看護師は余っていないのだから、関東は大幅に足りないことになる。

 質を下げずに、看護師の養成数を増やすにはどうすればいいだろう。特効薬など存在しない。

 私が注目するのは、関東には、埼玉大、茨城大、横浜国大など、看護学部を持っていない国立大学があることだ。このような大学に看護学部を作ればどうだろう。

 また、東京医科歯科大学や千葉大学など(何れも定員は60人程度)、既存の看護学部の定員を増やすことも考慮すべきだ。08年、医学部が定員を増やしたのと同じ対応をとればいい。

 私立の名門大学に進みたい人は多いだろうが、学費が高い。初年度納付金が200万円を超す大学も珍しくない。国公立大学での看護師育成の強化は、教育の機会均等に貢献する。ウーマノミクスが議論されている、政府が検討すべき事案である。