田村秀男(産経新聞特別記者・編集委員)

 内閣府が17日に発表した7~9月期の国内総生産(GDP)速報値によると、実質成長率は前期比年率換算で2四半期続けてマイナスに落ち込んだ。V字型の回復を見込んでいた大方のエコノミストや日経新聞などメディア多数の予想が完全に外れた。消費税増税は景気回復基調を腰折れさせたばかりか、デフレを再燃させつつある。

「破壊力」認識が先


 安倍晋三首相は18日、2015年10月に予定されていた消費税率10%への引き上げ実施を先送りしたうえで、衆院解散・総選挙に踏み切る意向を表明した。アベノミクスが増税のために瀕死(ひんし)の状態に追い込まれたことから、再増税見送りは当然だが、まず必要なのは、消費税増税の恐るべき破壊力の認識だ。

 甘利明(あまり・あきら)経済財政・再生相はGDP速報値発表後の記者会見で、「デフレ下で消費増税を行うことの影響について学べた」「デフレマインドが払拭しきれないなかで、消費税を引き上げるのはかなり影響が大きい」と反省の弁を述べたが、そんなことは1997年4月の橋本龍太郎政権当時の消費税増税後のデフレ不況をみればわかるのに、甘利氏は周辺の内閣府エコノミストたちから楽観論ばかり吹き込まれたのだろう。

 本欄などで、「消費税増税でアベノミクスは殺される」と1年半以上前から警告してきた筆者からすれば、これらエリート官僚たちは、権力と納税者のカネを使って収集した豊富な情報をいったいどのように加工、歪曲(わいきょく)したか、知りたいところだ。

 問題はこれからだ。再増税を先送りしたところで、景気が復調するわけではない。

 甘利氏は「大事なことは好循環をしっかりまわしていくことだ」と言い、「企業収益は過去に例のないくらいに好業績をあげている。それが内部留保にとどまらず、雇用者報酬に反映されることが一番大事だ」としており、賃上げを引き続き産業界に求めて行くつもりのようだ。

 しかし、消費税増税で実質所得が減って消費が冷え込む中で、賃上げを求めるには無理がある。好業績なのは輸出大手なのだが、内需型企業は原材料コスト上昇に悩まされている。

現役世代へ所得減税

 即効性が期待されるのが金融緩和である。黒田東彦(はるひこ)日銀総裁は10月末に思い切った「異次元緩和」追加策を打ち出し、円安、株高を演出した。円安は株高を導き、株高は実体経済を押し上げるという読みがある。

 伝統的な日銀マンは金融政策を通じて株高に誘導するのは「タブー」で口にしたがらなかったのだが、黒田日銀は株式のインデックス投信を信託銀行全体の規模並みで買い上げるのだから、随分と変わったものだ。では、株高で実体経済はどのくらい押し上げられるのか。

 グラフは2008年9月のリーマン・ショックを起点に、実質GDP、家計消費と株価を指数化して、推移を追ったものだ。株価が低迷している間、実質GDPは低迷する一方、家計消費はわずかながら上向いてきた。デフレで物価が下がっているなかで名目消費は横ばいでも実質では物価下落分だけプラスになる。

 そんな基調の中で、安倍政権が12年12月に発足して、アベノミクスへの期待で株価が上昇し始めた。すると、家計消費も実質GDPも上昇軌道を描き出したことが読み取れる。ところが、この2つとも今年4月にぽきんと折れた。いったん下がった株価は6月から反転上昇し始めたにもかかわらず、GDPは下向いたままだし、家計消費の回復は弱々しい。

 グラフのデータは9月までで、10月末の異次元緩和追加と円安・株高を反映していないが、株高によるGDP押し上げ効果は日本の場合、米国に比べてかなり弱い。リーマン・ショック後のデータをもとにした筆者の試算では、株価が2倍になった場合、米国では11年9月以降、一貫して実質GDPが15%前後増えるが、日本では12年12月以降は5%前後で、7月以降は2%台まで落ち込んだ。

 安倍政権が消費税増税を見送るだけでは、アベノミクスを蘇生(そせい)させられない。デフレ再燃の恐れが顕在化した以上、政府は増税効果を相殺する財政政策を打ち出すべきだ。現役世代向けの所得税減税が急がれる。