西岡力(麗澤大学客員教授、モラロジー研究所室長)

 米国トランプ政権は過去20年あまりの対北政策は誤りであったとして、軍事行動を含む全ての手段をテーブルに載せて検討すると繰り返し表明している。それに対して北朝鮮は米国の侵略は許さない、先制核攻撃も辞さないと緊張を高めている。当面の焦点は4月15日の金日成生誕記念日前後核実験や大陸間弾道ミサイルの発射実験を行うかどうかだ。

 私は4月上旬に訪韓し、北朝鮮内部と連絡を取り合っている複数の脱北者らから以下の内部情報を聞いた。

1. 金正恩は中国と交渉するつもりはない。潜在的な敵国と考えている。
2. 早くアメリカ本土まで届く核ミサイルを完成させよと、金正恩が命令した。そのため、昨年から今年にかけて繰り返しミサイル実験をしているが7割から8割は失敗した。それでも少しづつ技術開発は進んでいる。
3. 金正恩は4月15日の前に核実験の準備は完了せよと命じた。それは完了している。弾道化した核兵器の実験だ。これまでの実験に比してかなり爆発力が大きい。100メガトンクラスだ。これが成功すれば弾頭は完成する。
4. 米国と交渉をしたいと、密使を送って、「米国の要求をのむ」と伝えている。しかし、米国は「言葉ではなく行動を示せ」と返事して交渉に応じていない。
5. 金正恩の狙いは、最初に米国と交渉することだ。米国に核保有国として認めさせた上で、経済制裁を解除させることを考えている。
6. それがうまくいった後、日本と交渉し小泉首相が金正日に約束した100億ドルを得る。そして、大規模な外資を誘致することを狙っている。

 一方、米国内にも北朝鮮との「取引」を提案するリベラル派の意見が出てきた。外交問題の専門誌『フォーリン・アフェアーズ』の発行元である「外交評議会」のリチャード・ハース会長は3月17日付け論文で北朝鮮との取引しかないと主張した。「ミサイル防衛は不完全であり、抑止は不確実だ」、軍事攻撃は多大な報復を受ける韓国政府が反対する、残された選択は「取引」しかない。

平壌で高層住宅団地の竣工式に出席した金正恩朝鮮労働党委員長(中央)=4月13日(ロイター)
平壌で高層住宅団地の竣工式に出席した金正恩朝鮮労働党委員長(中央)=4月13日(ロイター)
 北朝鮮に対して核ミサイル開発の「凍結」と核物質の不拡散、それを検証するための国際査察の受け入れを求める。彼らがその条件を受け入れすなら、米国は制裁を緩和し、人権問題を棚投げして平和条約を結ぶ、というものだ。

 上記の金正恩の狙いに合致する内容だ。このような融和論が出るから、金正恩は勇気を得るのだろう。

 日本にとってこの取引は最悪だ。米国まで届く核ミサイル開発は凍結されるが日本を射程に入れた核ミサイルは完成しているので安全保障上、重大な危機となる。その上、拉致問題を棚上げにして米国が制裁緩和と平和条約締結に踏み切れば、核問題での国際圧力をてこに拉致問題の先行解決を目指すという安倍政権と私たち家族会・救う会の救出戦略がほぼ不可能になる。

 ただし、金正恩は今、米国まで届く核ミサイルを完成させるために必死の努力をしている。あと1回核実験をすれば弾頭は完成する。大陸間弾道ミサイルや潜水艦発射弾道ミサイルも完成間近だ。まず、それを完成させてから米国との「取引」に臨むことが彼らの当面の目標だろう。