櫻田淳(東洋学園大学教授)

中国の役割は火薬庫点火の阻止


 北朝鮮情勢の「緊迫」が語られている。ただし、忘れてならないのは、「火薬庫に火薬を運び込む」のと「火薬庫の中で火を付ける」のとでは、持つ意味は異なるという事実である。

 カール・ヴィンソン空母打撃群急派を含めて米国が示した直近の対応は、「有事」を想定して「火薬庫に火薬を運び込む」類いの挙であるかもしれないけれども、それでも、「火薬庫の中で火を付ける」類いの挙ではない。結局のところ、「火薬庫の中で火を付ける」のは、北朝鮮の対応である。

 北朝鮮が再び核実験に走るか、金正男氏暗殺と同様に化学兵器を再び使用するか、あるいは日米両国を含む他国領域内に着弾するミサイルを発射するかでもしない限りは、朝鮮半島周辺では「有事」は起きない。逆にいえば、この3つのどれかに北朝鮮が手を掛けた場合には、それが「火薬庫の中で火を付ける」振る舞いとなる。

 先刻の米中首脳会談の折、シリア空爆決行を含めてドナルド・J・トランプ米国大統領が習近平中国国家主席に示した姿勢の意味とは、そうした米国の対朝政策方針だけではなく、北朝鮮の「火を付ける」挙を制止する第一の責任が中国にあると伝えたことにある。
夕食会のためトランプ米大統領(中央右)夫妻に出迎えられる中国の習近平国家主席(中央左)夫妻=4月6日、米フロリダ州パームビーチ(ロイター=共同)
夕食会のためトランプ米大統領(中央右)夫妻に出迎えられる中国の習近平国家主席(中央左)夫妻=4月6日、米フロリダ州パームビーチ(ロイター=共同)
 以上に披露した筆者の観測が正しいならば、日本政府の対応として考慮しなければならないのは、次の2点である。

意義のある敵基地攻撃議論


 第1に、北朝鮮が実際に「火を付ける」挙に及んだ場合に手掛けるべき事柄については、早急に見極めを付ける必要がある。当然、その中核を占めるのは、日米同盟の枠組みで何ができるのかという議論であろう。

 たとえば、過刻、自民党は、自衛隊の敵基地攻撃能力保有を求める提言を出した。この政策展開の実際の「有効性」については、諸々(もろもろ)の評価がある。しかし、確認さるべきは、自衛隊が敵基地攻撃能力を保有したとしても、それを自衛隊が単独で行使することは考え難いということである。

 戦国の故事に例えれば、自衛隊(徳川家康軍)が米軍(織田信長軍)との関係で踏襲すべきは、織田、徳川両軍の万全の協調の下に臨むことができた「姉川」「設楽ケ原」の両戦役の様態であって、徳川軍が織田軍の十分な来援を得ないままに戦端を開いた「三方ケ原」の戦役の様態ではない。

 「清洲(織田・徳川)同盟」の下での徳川軍のように、日本が米国の「ジュニア・パートナー」であっても、対等な役割を引き受ける流儀を模索できるのであれば、敵基地攻撃能力保有に絡む議論に相応の意義がある。現下の北朝鮮情勢は、そのための奇貨かもしれない。