柳澤協二(元防衛省幹部、国際地政学研究所理事長)

 北朝鮮の挑発が止まらない。アメリカのトランプ政権が、シリアの空軍基地を爆撃、空母部隊の北朝鮮近海への派遣、アフガニスタンでのタリバン拠点に対する新型爆弾の使用など、一転して軍事力を前面に押し出す姿勢を示している一方、北朝鮮はさらに核実験やアメリカに届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発の意図をもって答えている。

 それがトランプ政権にとってレッド・ラインを超えると判断されれば、シリアで行ったようにアメリカによる懲罰的な武力行使が予想され、北朝鮮がこれに反撃する形で戦争が始まるかもしれないという恐怖が広がっている。

 発射されたミサイルを迎撃するミサイル防衛に100%の成果を期待できないのだから、ミサイルの発射基地を攻撃しなければならないという声もある。「敵基地反撃」能力を持つべきであるとの提言が、3月30日に自民党の安全保障調査会・国防部会で発表されるなど、従来の専守防衛では、高まる北朝鮮の核・ミサイルの脅威には対抗できないのではないかという問題意識だ。
北朝鮮の軍事パレードに登場した、新型ICBM用の可能性がある発射管付き車両=20174月、平壌(共同)
北朝鮮の軍事パレードに登場した、新型ICBM用の可能性がある発射管付き車両=2017年4月、平壌(共同)
 しかし、そのこと自体、何を問題にしているのかよくわからない。生半可な理解のまま国防を語るのは危険だ。勇ましいようでも、あらぬところに弾を打ちまくるならば、それは恐怖の裏返しにすぎない。

専守防衛と敵基地攻撃

 「専守防衛では、ミサイルが飛んでくるまで何もできないのだから、発射前に破壊できるようにしなければならない」という発想について考えてみる。

 専守防衛とは、「相手から武力攻撃を受けたときにはじめて防衛力を行使し、その態様も自衛のための必要最小限にとどめ、また、保持する防衛力も自衛のための必要最小限のものに限るなど、憲法の精神に則った受動的な防衛戦略の姿勢をいう」とされている。

 これは、他国領域への先制攻撃を否定するものではあるが、「自衛のための必要最小限度」の範囲内であれば、敵基地への攻撃を否定するものではない。また、国土に被害が出るまで何もできないわけでもない。自衛権を行使するのは、攻撃が完了した段階ではなく、敵が武力攻撃に着手した段階だから、日本を攻撃することは明白な敵兵力が行動を開始すれば、それがいまだ敵国の領域にとどまっていたとしても、反撃することができる。

 弾道ミサイルの場合、日本を目標にしたミサイルが発射準備に入れば、その時点でこれを攻撃しても、専守防衛からの逸脱とは言えない。問題は、専守防衛にあるのではなく、敵のミサイルが発射態勢にあることをどのように察知し、それが日本を狙っていることを誰がどのように判断できるのか、そして、そのミサイルを首尾よくつぶせば、それでことが終わるのか、ということだ。

 そもそも、地下に格納され、あるいは移動発射台に搭載されたすべてのミサイルの位置を把握し、同時に破壊することは不可能だ。そして、残存したミサイルによる報復攻撃が来る。それが核であったら、今度は日本が壊滅する。

 テレビの映像で、3月7日に北朝鮮が4発のミサイルを同時に発射するシーンが放映された。「そこをつぶせばいい」という気分になる。しかし、「そこ」が「どこ」なのか、誰が知っているのか?当日の衛星画像を解析すれば、どこであったのかが判明するかもしれない。しかし、それこそ「後の祭り」である。相手は動くのだから。