発射態勢にあるミサイルを破壊しようとすれば、北朝鮮上空を無人偵察機で覆うか、あるいは、あらかじめ特殊部隊を潜入させるなどして、爆撃目標を視認して、攻撃部隊に指示しなければならない。問われるのは、攻撃手段ではなく目標探知能力なのだ。

 つまり、敵基地攻撃を行うとしても、ミサイルを100%防ぐことはできないということだ。それゆえミサイルは、劣勢にある側が優勢にある敵に対抗する拠り所となる。北朝鮮がミサイルに固執する理由もそこにある。

報復の抑止力

 そこで、ミサイルは防げないことを前提にした対応が必要となる。それが、「報復力」にほかならない。

 今年2月14日の衆議院予算委員会で、安倍晋三首相は「北朝鮮のミサイル発射の際、共同で守るのは米国だけだ。撃ち漏らした際に報復するのも米国だけだ。トランプ大統領が必ず報復するとの認識を(北朝鮮に)持ってもらわないと冒険主義に走る危険性が出てくる。日本としては、トランプ大統領と親密な関係を作り世界に示す選択肢しかない」と答弁している。
衆院予算委員会で民進党の辻元清美氏(左)の質問に答弁する安倍晋三首相=2017年2月14日(斎藤良雄撮影)
衆院予算委員会で民進党の辻元清美氏(左)の質問に答弁する安倍晋三首相=2017年2月14日(斎藤良雄撮影)
 ここで言われていることは、ミサイル攻撃をすれば報復するという典型的な「報復による抑止」の思想である。防げない攻撃を思いとどまらせるには、倍返しの脅しによって攻撃を思いとどまらせるというものだ。そして、その報復力を担うのはアメリカである、と言っている。政府は、自身の敵基地攻撃よりもアメリカの攻撃力に拠ろうとしている。

 脅威とは、攻撃する能力と意志の掛け算で定義される。同様に抑止力も、攻撃されれば報復する能力と意志の掛け算である。アメリカに、北朝鮮を壊滅させる能力があることは、だれも疑っていない。北朝鮮も、それを知っているがゆえに、アメリカを「抑止」しようとして核・ミサイルを開発している。これは、基本的に、アメリカと北朝鮮の間のパワー・ゲームである。

 安倍首相の答弁も、アメリカの能力がないからではなく、アメリカの報復の意志が揺らいでは抑止力にならないという認識に立っている。ちなみに、トランプが「アメリカは常に100%日本とともにある」というとき、英語では「stand behind Japan」なので、アメリカは「背後から」日本を守る、つまり、報復するというわけで、安倍首相の答弁と表裏一体をなしている。