「たばこ白書」はメディアも同罪のプロパガンダ

『コンフォール』 愛煙家通信 No.18 2016年秋号

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山森貴司(喫煙文化研究会事務局長)

9本の論文


 昨年8月末、厚生労働省の有識者検討会が「喫煙と健康影響」に関する報告書、いわゆる「たばこ白書」を発表。喫煙が、がんなど22種類の病気の発症や病気による死亡の要因であることは「確実」と断定したうえで、日本の受動喫煙対策は「世界最低レベル」であり、「屋内の100%禁煙化を目指すべきだ」と提言している。

 時を同じくして、国立がん研究センターは「たばこを吸わない日本人の受動喫煙による肺がんのリスクは、受動喫煙を受けない人に比べて約1・3倍に上昇すると発表した。その〝成果〟をもとに、肺がんに対する受動喫煙のリスク評価を従来の「ほぼ確実」から「確実」に格上げしている。

 この厚労省と国立がん研究センター発表を、8月31日付の新聞各紙はいっせいに報道した。

「白書として初めて、日本人での喫煙と病気の因果関係を(中略)科学的に判定した」「日本人で受動喫煙によるがんリスクが科学的に証明されたのは初めて」(以上、朝日新聞)、「複数の研究を統合し、対象数を増やして分析したことで明確な結果が得られた」(東京新聞)、また若尾文彦・国立がん研究センターがん対策情報センター長の話として「日本人でも受動喫煙が肺がんに影響していることが科学的根拠に基づいて示された」(同)。

 しかし、受動喫煙と肺がんの因果関係を科学的に判定、証明し、明確な結果が得られたという根拠はと言えば、受動喫煙と肺がんの関連を示した426本の論文のなかから、1984年から2013年に発表された九本の論文を選んで分析した結果だという。

 いったい426本の論文とはどういうものなのか、そのなかからどういう理由で9本の論文を選んだのか、その論文についてどんな分析を行ったのかは、各紙とも何の説明もしていないので、報道からはまったくわからない。
JTの「正論」


JTの「正論」


 同日、JTは小泉光臣代表取締役社長名義で次のようなコメントを発表した。長くなるが、簡にして要を得た文章なので、その一部を引用しよう。

〈これは、過去に実施された日本人を対象とした疫学研究論文から9つの論文を選択し、これらを統合して統計解析したところ、受動喫煙を受けない非喫煙者のリスクを1とした場合に、受動喫煙を受けた非喫煙者のリスクが1・3となったとの結果をもって、受動喫煙と肺がんの関係が確実になったと結論付けた発表であると認識しております。〉

〈しかしながら、JTは、本研究結果だけをもって、受動喫煙と肺がんの関係が確実になったと結論付けることは、困難であると考えています。〉

〈受動喫煙を受けない集団においても肺がんは発症します。例えば、今回の解析で選択された一つの研究調査でも、約5万人の非喫煙女性中の受動喫煙を受けない肺がん死亡者は42人であり、受動喫煙を受けた肺がん死亡者は46人でした。肺がん等の慢性疾患は、食生活や住環境等の様々な要因が影響することが知られており、疫学研究だけの結果をもって喫煙との因果関係を結論付けられるものではありません。〉

〈また、今回用いられた複数の独立した疫学研究を統合して解析する手法は、選択する論文によって結果が異なるという問題が指摘されており、むしろ、ひとつの大規模な疫学研究を重視すべきとの意見もあります(※)。今回の選択された9つの疫学研究は研究時期や条件も異なり、いずれの研究においても統計学的に有意ではない結果を統合したものです。〉

〈これまで、受動喫煙の疾病リスクについては、国際がん研究機関を含む様々な研究機関等により多くの疫学研究が行われていますが、受動喫煙によってリスクが上昇するという結果と上昇するとは言えないという結果の両方が示されており、科学的に説得力のある形で結論付けられていないものと認識しています。〉
※「新しい疫学」(財団法人 日本公衆衛生協会)/「メタ・アナリシス入門」(丹後敏郎 朝倉書店)
なぜ「疫学研究」と報じないのか


なぜ「疫学研究」と報じないのか


 つまり国立がん研究センターが分析・判定して受動喫煙の肺がんへの影響を「科学的に」証明した根拠というのは、九つの、おそらくは自分たちに都合のいい(?)疫学調査をいじくりまわしたというだけにすぎない。

 報道には「疫学研究」という言葉はいっさい出てこないが、疫学研究というのは、もともとは感染症の原因や動向を調べるもので、現在では広く病気の原因と考えられる要因と病気の発生の関連性について、その因果関係を統計的に調査することである。

 新聞の読者は、さぞ科学的医学的な研究が行われたのだろうと思うだろうが、実際はこれまでに発表された論文の統計学的な数字を操作しただけなのである。

実は統計的手法による疫学は、調査する人の立場や価値観(予断・予見)に左右されがちで、それが〝証明〟できるのは「相関関係」であって決して「因果関係」ではない。

たとえば、「解熱剤をのんだら熱が下がった」としても、その因果関係は証明できない。のまなくても熱は下がったかもしれないからだ。そのことは本誌連載の「医療エッセイ」で葦原祐樹氏が何度となく触れているとおりである。

 疫学調査から因果関係を見出そうとすれば、人によってまったく逆の結論に達することもままある。因果関係を決める要因は、その人の期待と願望、つまり「心」であるという意見さえある。決して科学的客観性ではない。

 にもかかわらず、各メディアは、どのような〝研究〟のもとに発表が行われたかをいっさい検証せず、ただ厚労省や国立がん研究センターという権威の発表をただ右から左に流すだけでなく、「科学的に判定した」「科学的に証明された」「明確な結果が得られた」と、まるで世紀の大発見扱いである。嫌煙運動を煽り立てているかのようだ。いや、結果的にはまさしく煽っている。近年、誤報や捏造が問題になることの多いメディアの、これも無自覚なプロパガンダの一つと言えるだろう。

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