政治学者でハーバード大学教授のR・パットナムは〈社会関係資本〉を「個人間のつながり、すなわち社会的ネットワークおよびそこから生じる互酬性と信頼性の規範」と定義します。東日本大震災後よく使われるようになった「絆(きずな)」が近いでしょうか。
 パットナムによれば、〈社会関係資本〉という言葉は1916年にウェストバージニア州農村学校の指導主事だったL・ハニファンが用いており、決して新しい概念ではないが、近年、綿密で大量の研究により、社会的つながりは我々の健康の最大の決定要因の一つであることは合理的に疑い得ないところまで確証されたと述べています(R・パットナム「孤独なボウリング」柴内康文訳/2006年/柏書房)。

 この「社会的なつながりの強さ」の健康に与える影響について、ハーバード大学公衆衛生大学院のイチロー・カワチ教授は「日本人が長生きなのは、食生活などの生活習慣の違いが影響しているのではないかと考えている人が大勢いる。確かに世界的に見ても体に良いと言われている日本食だが、実は塩分や炭水化物が多く含まれているため、とりわけ優れているとは考えにくい。では、寿命を左右する本当の要因は何か。ハーバード大学の社会疫学研究者たちが1996年、世界の国や地域で行った大規模な調査の結果、日本文化の中にある強い〈社会関係資本〉が長寿と健康に大きく関係していることが分かった」と述べています(「日本人はなぜ長生きなのか13万人調査でわかったこと」週刊現代2012年9月15日号)。

喫煙文化研究会著
『たばこはそんなに悪いのか』
(ワック刊)
 先年、県別の寿命が発表され、長野県が男女共に1位になりました。その理由について、医師や学者は減塩など食生活の改善運動や喫煙率の低さなどを挙げるのですが、正しい見方とは言えません。例えば、厚労省の平成24年の「国民健康・栄養調査」によれば、長野県の塩分摂取量は依然として全国平均より多く、県別では男女共に岩手県に次いで多い方から2番目でした。そのせいか「脳卒中(脳血管疾患)」の死亡率は全国平均より高く、男性は高い方から13番目、女性は7番目でした(平成22年)。

 では、何が長野県を長寿県にしているのでしょうか。まさに〈社会関係資本〉によって説明できます。すなわち、長野県は地域住民の社会参加が活発で〈社会関係資本〉が豊かなのです。高齢者の有業率は男女共に長野県がトップですし、地域住民の社会参加の一つの指標として挙げられるのが公民館活動ですが、人口100万人あたりの長野県の公民館数632は全国平均の125を大幅に上回ってダントツです。数が多いだけでなく、活動も活発で、平成17年に全国の公民館が主催した文化事業2万6千件のうち、長野県は2900件と1割以上を占めました。さらに、長野県は伝統芸能の保護に熱心なだけでなく、サイトウキネン(セイジ・オザワ)音楽祭など芸術文化活動に熱心ですが、大事なことは、こうしたイベントの実施に地域住民がボランティアとして積極的にかかわっていることです。まさに「互酬・互恵」の精神が根付き、これがコミュニティー(地域共同体)の〈社会関係資本〉を豊かにしているのです。