愛煙家みなさん、喫煙歴がない私の「肺がん地獄」を想像できますか?

『長谷川一男』

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長谷川一男(NPO法人「肺がん患者の会ワンステップ」代表)


 私は肺がんの患者であり、その視点から論考したいと思います。7年前、39歳になったばかりの冬に突然、せきが出始め、病院に駆け込んだところ肺がんであることがわかりました。進行度を示すステージは最も進んだ「4」。5年の生存率は5%ほどでした。青天の霹靂(へきれき)とはこのことを言うのでしょう。そしてもう一つ、ある思いが自然と湧き上がってきました。私には喫煙歴がありません。「よりによってなぜ肺がんなのか?」

 喫煙していなくても肺がんを患うことがあります。その原因の一つが「受動喫煙」です。振り返ってみると、発症前、受動喫煙を多く経験していました。まずは親です。父親はたばこを一日2箱吸うヘビースモーカーでした。母親はその煙を嫌い、家のリビングに大きな換気扇を設置しているほどです。畳にはたばこを押し付けた後がいくつもありました。

 そういえば、私は不注意から灰皿をひっくり返してしまったことが何度かあります。自分でひっくり返してしまったのだから、自分で片づけるのは当たり前ですが、これ以上ない不快なこととして記憶に残っています。
※写真はイメージ
 父は肺がんを患い、亡くなりました。大人になり働くようになると、職場においても受動喫煙しています。私が就職したのは25年ほど前です。職種がマスコミということもあり、ほとんどの人が吸っていました。通常、灰皿は直径10センチほどの大きさと思われますが、職場には直径30センチはあろうかという灰皿が置いてありました。銀色で軽い、カンカンと音がする灰皿の巨大版です。

 「受動喫煙は本当に病気の原因となるのか?」と問う人がいます。実はその疑問は正しいのです。受動喫煙のリスクは「ほぼ確実」と言われていて、「確実」ではありませんでした。本当に病気の原因となるのかと問われたら、確実にそうだとは言えない状況だったのです。ところが昨年、それがひっくり返りました。

 受動喫煙のある人はない人に比べて、肺がんになるリスクが約1・3倍、そのリスク評価は「ほぼ確実」から「確実」に上がりました。乳幼児突然死症候群、虚血性心疾患、脳卒中の原因ともなることも指摘されました。受動喫煙の健康被害・他者危害が明らかとなり、この問題は、マナーの問題ではなくなったのです。昨年までと現在では、異なる状況であることを理解していただきたいです。

 「喫煙者は受動喫煙させないように努力している」「今の分煙をもっと進めればよいではないか」「こちらの吸う権利も考えてほしい」と語る人もいます。国会議員のたばこ議連の方がこのような趣旨でよく話されます。しかしながら、私の周りの喫煙者で、「分煙」によって本当に受動喫煙を防ぐことが可能と考えている人はいません。

 分煙には、喫煙者も非喫煙者も懐疑的であるという理解です。また世界保健機関(WHO)の評価基準に照らしたとき、残念ながら日本は、受動喫煙防止対策について最低評価となっています。分煙をきちんと進めたとしても、この評価はほぼ変わらずです。世界的に見て、きちんと分煙ができ、受動喫煙を防ぐと考える国はないからです。
本来なら「救える命」

 がんを患って知ったことがあります。それは「人は苦難を乗り越えようとする強さを持っている」ということです。自分ががんになったことにどのような意味があるのか。すべてのことに意味があるならば、自分自身ががんを患うことにも意味があるはず。右往左往を経験しながらも、やがて一日一日を、一瞬一瞬を生きようと前を向きます。

 運命を受け入れ、自分の命を全うしようとするのです。しかしながら、この考え方には前提があります。それが運命ならば、ということです。もし自分のがんが何らかの外的な要因によって起こったとするならば、もし避けられることだったとすれば、話は違います。

 想像してみてほしいのです。他人の行為が原因で、もし自分の命に限りがあると告げられたら、それは患者本人だけの問題ではありません。家族、親しい友人、仕事仲間、周りにいる人すべてを苦しませます。
※写真はイメージ
 想像してみてほしいのです。もし、自分の周りの大切な人が肺がんを患い、命を落とすかもしれない状況になったら…その原因にもしかしたら自分が関わっているかもしれないという疑念がでます。もう一度書きますが、昨年からリスクが「ほぼ確実」から「確実」へと移行し、健康被害や他者危害が明らかになりました。あなたはそれをもう知っています。「本当に受動喫煙は体に悪いの?」と逃げることはできません。これは「地獄」です。

 今、2020年の東京五輪・パラリンピックを視野に入れ、罰則付きの受動喫煙防止法案が進められています。この法案は受動喫煙による被害を未然に防ぎ、肺がん患者と周囲の人びとの苦しみのこれ以上の広まりを断ち切る、それが目的です。一日も早く実現することを願っています。厚生労働省には屋内全面禁煙の方針を貫いていただきたい。応援しています。

 日本における受動喫煙による年間死亡者数は、交通事故による死者4千人を大きく上回る、およそ1万5千人と推計されています。大事なことは、これは「救える命」である、ということです。それを放置し、苦しみを生み出すのはもう終わりにしなければならない、そう思います。

 ※本文中の統計は、『平成27年度厚生労働科学研究費補助金、循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業「たばこ対策の健康影響および経済影響の包括的評価に関する研究」』と『 喫煙の健康影響に関する検討会「喫煙と健康――喫煙の健康影響に関する検討会報告書」(2016年9月2日公表)』、アメリカ疾病管理予防センターの調査に基づくものです。

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