米国政治に関する日本国内での報道、情報は外国に関するものとしては圧倒的に多いものの、大半のケースでは政治システムの基本的な部分に関する説明が省略されてしまい、行政府=政府が強力な日本と同じようなシステムで動いているのでは-との錯覚さえ生みかねない。米国の三権分立は徹底しており、特に内政では日本人が平均的に抱いているであろうイメージより議会(さらには連邦最高裁判所)の力ははるかに強いし、大統領=行政府が主導する外交・軍事でも歳出面を中心にした議会の発言権は小さくない。

 このことや、議員は個々の意思で立法活動に動くことが多いことなどを知らないと、例えばなぜ米国では議員らに働きかけて依頼人の利益増進を図る「ロビイスト」という職業が相当数、公然と存在するのか、理解できないことになりかねない。
 

■議員個人が埋没する日本の国会

 米議会の主な特色を挙げると、
・     党議拘束がない
・     第二院(上院)の権限が極めて強い
・     すべての法律は議員立法
-と日本や欧州諸国などと異なる部分が多い。どんな政治システムでもそうであるように、長所・短所はそれぞれあるものの、米国の議員が世界で最も自主性が強く、慨して政策立案能力にも長けていることはこれらの基盤から生まれている。

 いったん当選すれば政府提出法案に対して、党議に従って賛成または反対することが(表面から見える)主な仕事となってしまう日本。当選回数を重ね、与党なら行政府の一部である大臣になることが「出世」と認識されるこの政治システムが、選挙前後以外は大半の議員の存在は薄らいでしまい、不祥事などでも起こさない限り、注目されない環境を作ってしまっていないだろうか。
 「押し付け憲法」下でも、米国式ではなく英国に近いものとされた議会制度だが、議員個人がより、能力を発揮して本来の仕事であるはずの立法活動を行う国会は実現できないのか。米国の状況を伝える。
 

■一人の議員がキャスティングボートを握ることも

 
 米議会では上院、下院とも党議拘束は基本的に存在しない。下院議長、各委員長など院内人事案件で所属党の方針に反する票を投じれば除名などの処分を受けることになるが、それ以外の法案審議では、院内の党指導部や大統領に従う必要はなく、各議員の信条や、選出選挙区の事情に従って態度を決することが一般的だ。
 
 この結果、議会内の共和・民主両党指導部にとっては、いかに自党所属の議員票をまとめるか、対立党所属議員で見込みがある層を切り崩せるかが極めて重要な任務になっている。これらの工作は上層部同士ではなく、個人を対象に行われることが普通で、よくも悪くも議会政治をダイナミックなものとする。
 
 上院を例にとれば、来年初頭まで有効な現会期では民主党が(同党に近い無所属議員を含め)10議席差で優位、今回の中間選挙を受けた次会期では現時点で(決選投票が行われる1州を除き)共和党が6議席差で優位になるが、実際の議会審議で投票結果がこの党派構成どおりになることはかなり少ない。
 
オバマ現政権の最大の実績とされる「オバマケア」法案をめぐる上院審議では最終段階で、共和党穏健派のスノウ議員(当時)か、民主党保守派のネルソン議員(同)のいずれかの賛成を得ることが成立に必須になった。結局、後者の賛同を得ることで成立したが、その際にはネルソン議員が要求した、法案の一部修正が受け入れられたように、たった一人の議員がキャスティングボートを握ることもままあるのだ。
 

■一票の格差60倍以上、強大な権限持つ上院


共和党上院院内総務のマコーネル議員。日本での知名度は高くないが、共和党最高実力者の一人。

 
 日本の参議院や英国の上院(貴族院)に代表されるように、二院制を採用する大半の国では、第二院は権限が小さくなるよう定められている。しかし、米国の場合はこれらとまったく異なり、上院の権限が極めて強い。
 
 上院と下院は立法機関としてまったく同等の権限を持っており、すべての法案は両院で可決されない限り、大統領の署名を求めることができない。それに加え、憲法では上院の専権事項として
・     宣戦布告
・     外国との条約批准
・     連邦裁判所判事人事の承認
・     閣僚、大使など主要な政府人事の承認
などが定めている一方、下院が優越しているのは予算案の先議権程度だ。
 
 さらに上院の定数は1州2人で100人と、435議席がある下院に比べ、議員1人の重みが違うことも、上院の存在感を強めている。2008年の大統領選が民主党オバマ、共和党マケイン両上院議員の争いとなったように、上院で名声を得ることは、州知事に次いで大統領への有力な道になっている。

 このように上院や上院議員の権限が強いのは、米国が”United States”の名の通り、各州の連合体としての性格を強く有しているからに尽きる。2010年の国勢調査で最も人口が多かったカリフォルニア州は約3700万人(東京都、神奈川県、埼玉県の全部と、千葉県の約半分を合わせたのに近い数字)、最も少ないワイオミング州は約56万人(東京都八王子市の人口とほぼ同じ)と60倍以上の格差があるが、両州の上院議員数も議員の権限もまったく変わらないし、異議を唱える声が真剣にあがったこともない。この点は、米国の個性といって間違いない。

 

■ 少数党所属でも新人でもチャンスあり

 米国では、大統領をはじめとした行政府には、法案を議会へ提出する権限は一切ない。国家の根幹をなす予算法案・歳出法案も例外でなく、ホワイトハウスは毎年初めに行政府としての要求をまとめた「予算教書」を議会へ送るが、これは形式としては拘束力を持たない「要請」または「勧告」で、実際の法案はホワイトハウスに近い議員によって提出される。

 また、予算(歳出)の割り当てをめぐる攻防も、政府案が決定されるまでが事実上の勝負であり、国会の予算委員会、本会議はいわば各党のパフォーマンスの場になっている日本とは違う。半年を軽く超える議会での審議が本番だ。原案どおりに通過することは絶対無く、両院で数多くの修正が付される(この過程で、各議員の力関係などによる地元への利益誘導が露骨に行われていくが、少なくとも結果は明白に公表される)。 

 予算以外でも無論、行政府=ホワイトハウスの意向が影響する法案は少なくないが、議員が個別に行う立法はそれをはるかにしのぐ。この土壌では、少数党の議員といえども、立法過程で蚊帳の外に置かれることはなく、特定問題に関しては考えが近い対立党議員らと組んで多数派工作を行い、最終的に法律として成立することも珍しくない。各議員が擁する政策スタッフや、議会予算局(CBO:Congressional Budget Office)などの機関は決して飾り物ではないのだ。 

 とはいえ、院内総務や委員長などの主要ポストを得るには、実力もさることながら当選を重ねて所属党内の序列を上がっていく必要があることは、米国も日本と変わらない。だが、たとえ2年ごとに選挙が繰り返される下院でも、現職がほとんどの場合圧倒的有利という国柄もあり、「1年生議員」でも本人の能力やスタッフしだいで、政治目標を実現させやすい環境にあるのは間違いない。(iRONNA編集部)