山本皓一(フォトジャーナリスト)

 日本は竹島問題から大きな教訓を学ばなければならない。領土の問題を放置する期間が長ければ長いほど、取り返しがつかないという現実があるからだ。

 ドイツの法学者イェーリングは「隣国にわずか1平方マイルの領土を奪われながら、放置する国は、やがて領土全てを失い、国家として存立することを止めてしまうだろう」と警告をした。

 今、日本は、その領土問題に直面し、竹島のみならず北方領土、尖閣諸島ともども隣国との外交上の火薬庫となっている。さらに日本を取り巻く周辺国の情勢が混とんとして先が予測できない時代に突入した。

 中国の強引な海洋進出は東南アジア海域で暴走を極め、北朝鮮は度重なる弾道ミサイル発射や核実験で恫喝(どうかつ)の度合いをエスカレートさせる。地理的に日本と最も近い隣国である韓国は朴槿恵(パク・クネ)大統領が弾劾裁判によって失脚し、国民は擁護派(保守)と指弾派(左派)に二分された。まるで南北軍事境界線ならぬ「保左対立境界線」の新たな壁ができたようだ。
2006年、韓国が不法占拠する竹島の山頂にある砲台(山本皓一氏撮影)
2006年、韓国が不法占拠する竹島の山頂にある砲台(山本皓一氏撮影)
 折も折、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長の長兄である金正男がマレーシアで暗殺された。混乱を極める朝鮮半島情勢。高高度防衛ミサイル(THAAD)の韓国配備をめぐってトランプ米大統領と習近平・中国国家主席の暗闘が続く中、私は朴大統領の弾劾裁判判決の直前に韓国と北朝鮮の国境地帯「軍事境界線」(DMZ)周辺を1400キロ走破した。現地から「極度の緊張状態にある」との連絡を受けたからだ。不思議なことに国境の町、軍基地周辺に軍人の姿が消えていた。大砲部隊の基地から155ミリK9砲も姿を消していた。北からの不意打ち砲撃を避けて移動したのだろうか。

 謎が解けたのは翌日の国防部の発表だった。毎年恒例の米韓の野外機動訓練「フォール・イーグル」と合同軍事演習「キー・リゾルブ」を早めて開始していたのだ。演習では米韓両軍約30万人の兵士が参加し、4月下旬まで続く。米軍は原子力空母「カール・ビンソン」やF35最新鋭ステルス戦闘機の投入も予定され、なかでも米陸軍の特殊作戦部隊グリーンベレーや米海軍の特殊部隊シールズ、韓国軍特殊部隊による、金正恩抹殺を狙った「斬首作戦」の訓練も実施されるらしい。この状況は、北の動き次第で即応可能となる実質的な臨戦態勢といえるだろう。まさに一触即発の危機が訪れようとしている。

 一方、大統領不在の韓国では5月9日投開票の次期大統領選挙戦に突入した。

 最も有力な候補は文在寅(ムン・ジェイン)「共に民主党」元代表とされている。彼は2016年7月25日、次期大統領選の準備のため竹島に上陸し、芳名録に「東海のわが領土」などと書き込んだ人物だ。もし彼が当選すれば、竹島問題はおろか日韓関係が一層こじれるリスクを孕(はら)んでいる。文氏の過激な演説を聴きながら、日韓のとげである竹島に上陸したときのことを静かに思い起こした。