三浦直樹(弁護士)
 
 亡父が遺した畑を耕していたAさん(当時75歳)は、サブリース業者Bの若い営業マンから「精が出ますね」と声を掛けられ、何度か言葉を交わすうちに仲良くなり、自宅に招き入れたところ、「畑を宅地にして、アパートを建てませんか」と勧められた。営業マンによると「当社が30年一括借り上げで家賃も保証するので、建築費用のローンも確実に返済できる」、「万一のときの相続税対策にもなる安心確実な資産運用」、「入居者募集も家賃集金も退去時立ち会も全て当社が行い、オーナーは、何もせずに通帳を眺めてさえいればいい」と、言葉巧みに語る。Aさんはこの営業マンの話を信じ、銀行で数千万円のローンを組んでBにアパート建築を発注。アパート完成後に一括借上契約書を交わした。

 しかし、賃貸開始当初は満室状態が続いたものの、近隣に競合物件が建ち始めると、Bは「今の家賃のままでは入居者が見つからない」と家賃の減額を求めるようになり、10年後には、一方的な契約解除を主張し、入居者を近所の別物件に転居させてしまった。Aさんは抗議したが、契約書の上では、契約期間は10年とされ、いつでも解約できるとする中途解約条項が入っていたことに気がついていなかった。結局、Aさんには、空っぽのアパートと莫大なローンだけが残された。

画像はイメージです
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 不動産サブリース契約とは、「不動産業者が土地所有者の建築した建物で転貸事業を行うために、あらかじめ両者間で賃貸期間、当初賃料額およびその改定などについての協議を調え、土地所有者がその協議の結果を前提とした収支予測の下に敷金の預託や金融機関からの融資を受けて建物を建築した上で締結された、不動産業者が土地所有者(建物所有者)から建物を一括して賃借することを内容とする契約」、すなわち、対象を同じくする収益物件の建築請負契約と一括借上契約が一体となった契約である。

 不動産賃貸業において、空室リスクは不可避の問題であるから、これを解消する「一括借上」は、オーナーにとって「建築請負」を発注する際の不可欠の条件であり、長期(少なくともローン完済まで)の「一括借上」がなかったら高額な「建築請負」を発注することはあり得ない。他方、サブリース業者にとって、「建築受注」こそが売上確保の至上命題であり、「一括借上」は、そのための手段に過ぎない。

 この点、サブリース業者の内部においても、建設部門では、より高く受注しようとするのに対して、建築代金ひいてはそのためのローンが高額になればなるほど、事業計画上、家賃を高く設定する必要があるため、入居者募集が困難となる賃貸部門は、より安く設定したいという対立関係に立つ。そして、真の空室保証と家賃保証が実現されていれば、家主は、安心して保証家賃を受け取ることができ、空室や賃下によるリスクは、サブリース業者の賃貸部門のみが負担することになる。

 しかし、サブリース業者の賃貸部門は、こうした利益より損失が大きくなる「逆ザヤ」現象を避けるために、一括借上契約の中に、巧妙な免責条項や家賃改訂条項、さらには中途解約条項などを組み込むことで、これらのリスクを避けているのである。かくて、サブリース業者内部の建設部門と賃貸部門との対立関係は、オーナーに転嫁され、サブリース業者とオーナーの利益相反関係が顕在化する。

 つまり、サブリース問題の本質は、本来的な利益相反関係をカムフラージュするために建築受注時に約束された「一括借上」のセールストークと、現実に締結される「一括借上契約」に組み込まれた責任回避条項との齟齬(そご)にある。

 不動産サブリースという業態について、直接規制する業法は存在しない。通常、家主は、宅地建物取引業者の「仲介」により、入居者との間で賃貸借契約を締結し、その後の家賃などの受領事務や契約の更新・終了にかかわる管理事務については、別途、業者に委託することが多い(これを「受託管理型賃貸住宅管理」という)。これに対し、家主から物件を賃借した業者が入居者に転貸する形で事実上の管理事務を行うのが「サブリース型賃貸住宅管理」であるが、これらの各業態に対する法規制は、「仲介」についての宅地建物取引業法しかない。