偽造カードで現金が引き出されただけなら、世間は「またか」と思っただけだろう。だが、全国のコンビニATMから一斉に引き出された総額が18億円以上ともなると、誰もが気にする事件である。今月、次々と逮捕されている現金を引き出した容疑者は20~30代の男性ばかり。『脱法ドラッグの罠』著者で若者の風俗文化に詳しいライターの森鷹久氏が、事件関係者を名乗る男の告白から見えたATM不正引き出し犯罪の系譜についてレポートする。

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 2016年5月15日。早朝午前5時過ぎからおよそ2時間の間に、全国のコンビニATMから偽造クレジットカードを使い現金約18億円が不正に引き出された。昨年12月にも同様の事件が発生しており、約1億円が不正に引き出されている。二つの事件の手口が全く同じである事から、警察当局は同一の国際犯罪組織が関与しているとみて捜査を進めているが、この周到な計画性について、金額やマンパワーの違いはあれど、私は真っ先に「オレオレ詐欺」のシステムそのものであると感じた。

 そしてその疑念は、6月7日の読売新聞朝刊を見て確信に変わったのである。「ATM不正「手順書」、オレオレ詐欺捜査で押収」と見出しがついたその記事は、新潟県警が逮捕したオレオレ詐欺容疑者の関連先から、偽造カードでATMから現金を引き出す手引き、注意点等が書かれた書類を押収したことが捜査関係者への取材からわかったと報じていた。

 このニュースを読んだ直後、私はすぐにAという人物に連絡を取った。Aは雑誌の仕事で知り合った元読者モデルだ。東京都下のとある市において、そのヤンチャぶりで少しばかり名を馳せていたAは、読者モデルとしてファッション雑誌などで活動していたが、その仕事が無くなるとホストに身を転じ、そのうちオレオレ詐欺や危険ドラッグ流通に関与して日銭を稼ぐようになっていた。

「ATMの引き出し、俺の後輩がやってるっすよ。なんなら診療報酬詐欺、あれも関わってるっすよ」

 あまりに軽い口調で伝えられた事実に半信半疑になりながら、Aの紹介でその後輩B(22)と顔を合わせた。Bは神奈川県内を拠点とする暴力団の関係者として行動しているが、構成員ではない、いわゆる「半グレ」である。Bは様々な詐欺に関わった自分の経歴を、こともなげに語り始めた。

「高校の頃にオレオレの出し子を経験」
「社会人になってからはホストを経て、ぼったくり居酒屋の店長に」
「友達に誘われて、診療報酬詐欺の患者集めを経験」
「後輩を集めて、Bが運転する車に乗せ、都下のコンビニを回った」

 Bが語る武勇伝からわかったことは、オレオレ詐欺で培われたノウハウが、その後の「商売」にそのまま流用されていることだ。

 オレオレ詐欺で現金を受け取る係を担う「出し子」は、その金を受け取る手順を事細かに伝えられ、その通り仕事をするよう求められる。その金がなんのためのものなのか、誰が集金しているのかを出し子は知らない。多くは地縁や友人経由でつながる「先輩」から、簡単だが断れないアルバイトとして頼まれる。その「先輩」はさらに上の「先輩」に、集金する人足集めを頼まれているだけだ。

 この人脈ピラミッドは何層も重なっており、一人や二人の先輩を遡った程度で、すべての金を集めている中心にたどり着くのは不可能だ。Bの話によれば、この集金システムがほぼそのまま、ATM不正引き出しにも流用されている。