宮崎正弘(評論家) 

《徳間書店『米国混乱の隙に覇権を狙う中国は必ず滅ぼされる』より》
 第45代アメリカ大統領にドナルド・トランプが就任した。

 そして2017年2月27日、トランプ大統領は「次年度予算で国防費を10%増加させる」とした。10%増は6兆円、これだけでも日本の防衛費のトータルより大きい。主眼は対中国である。

 後世の歴史家は「これにより米中は対決時代に入った」と書くだろう。

トランプ米大統領(左)の出迎えを受ける安倍首相
=2月10日、ワシントンのホワイトハウス(ロイター=共同)
トランプ米大統領(左)の出迎えを受ける安倍首相 =2月10日、ワシントンのホワイトハウス(ロイター=共同)
 トランプの当選直後にニューヨークへ飛んで西側指導者として真っ先に会見した安倍晋三首相は、2017年2月10日にも訪米し、ワシントンで日米首脳会談を終えるや、「冬のホワイトハウス」と呼ばれるトランプの豪華別荘に招待され、ゴルフに興じた。

 まさに異例の厚遇、破格の待遇で、アメリカのマスコミは辛辣(しんらつ)に「安保をアメリカに依存する以上、日本にはほかの選択肢はない」と皮肉ったが、一方で中国の習近平(しゆうきんぺい)国家主席に対して、トランプは一通の書簡を送っただけである。これは「破格の冷遇」だ。

 中国に一歩ひるんだ姿勢だったオバマ前政権とは完全に異なるスタイルであり、この日本厚遇、中国冷遇がトランプの外交を鮮(あざ)やかに象徴している。フロリダにおける日米共同声明直後、トランプ大統領と安倍首相が夕食を愉しんでいるタイミングを狙って北朝鮮はミサイル実験を行った。背後で中国が仕組んだのではないかとする邪推も生んだ。

 そして、2月13日にはマレーシアで北朝鮮の金正男(キムジヨンナム)が刺客に暗殺された。

 日本にとって現実の軍事的脅威は北朝鮮の核とVXガス。そして中国の軍事力である。朝鮮半島、東シナ海、南シナ海でアメリカはどう動くのか、その最終的な政策決定のキーパーソンは次の3人である。

 ジェームズ・マティス国防長官、スティーブ・バノン大統領上級顧問、もう1人はピーター・ナヴァロ国家通商会議代表だ。

 トランプは指名の折、マティスを「マッドドッグ」と言った。これは「狂犬」と訳すより「暴れん坊」という意味である。マティスはどの軍人よりも読書家であり、マキャベリから『孫子』まで愛読し、蔵書が7000冊ともいわれている。独身である。マティスが政権発足後、真っ先に日本にやってきたのも、東アジアへの軍事的脅威に本腰を入れるという合図である。

 マティスはアフガニスタン、イラク戦争で実際に軍事作戦の指揮を執り、適切な指揮、果敢な判断、その勇気によって軍人の多くから尊敬を集めてきた。彼の持論はその体験から生み出されたもので、「当面の敵はIS(イスラム国)である。このIS殲滅(せんめつ)のためにはロシアとの協力関係が必要である」というものだ。まさにマキャベリズムを地でいっている。

 議会、とりわけ共和党主流派は、ロシアを敵として位置づけているため、マティスは議会証言では「ロシアが基本的に敵であることに変わりはない」と発言している。頑迷にロシアを敵視するジョン・マケイン上院議員らを得心させるための公聴会用の発言である。本心を語らなかったのは、国務長官に指名されたレックス・ティラーソンも同じだ。親ロ派の姿勢を鋭く衝かれるや、彼は「当面、ロシアが敵であることに変わりはない」として、むしろ議会人を安心させることに重点を置いた発言を繰り返した。

 トランプ大統領は「ウォール・ストリート・ジャーナル」(2017年1月13日付、電子版)とのインタビューで、中国とロシアに対して、通商や外交面での「譲歩」を促している。ただし、ロシアに対しては「当面、制裁は解除しない」としてプーチンからの信号待ちという状態である。