宮崎正弘(評論家) 

《徳間書店『米国混乱の隙に覇権を狙う中国は必ず滅ぼされる』より》
 トランプ大統領のぶれない中国批判の源泉は、ピーター・ナヴァロの『米中もし戦わば』(赤根洋子訳、文藝春秋)のなかに潜んでいた。

 トランプのツイッターメッセージの原典はこれかと思うほどである。

 オバマ前大統領は軍事的知識に乏しく戦略的判断が不得手だったため、誰にそそのかされたのか、「敵と味方を取り違え」てばかりいた。イスラエルを敵対視し、イランと復交し、そのうえでロシアを敵視した。ハッカー攻撃の犯人だと証拠を挙げずに断定し、在米のロシア人外交官35人を追放した。プーチンはこの措置に報復せず「次期政権の出方を待つ」と余裕を見せた。

 フランスの戦略思想家レイモン・アロンに有名な箴言(しんげん)がある。

「正義が統治する社会を定義するより、状況を不適切と非難することは易しい」

就任後初の施政方針演説をするトランプ米大統領=2月28日、ワシントン(ロイター=共同)
就任後初の施政方針演説をするトランプ米大統領=2月28日、ワシントン(ロイター=共同)
 トランプは「ツイッター大統領」(「ワシントンポスト」が名付けた)と呼ばれ、記者会見を滅多に開かず、逐一のメッセージを自らが書き込むツイッターで政策のヒントを繰り出してきた。既存のメディアを無視するやり方にアメリカのジャーナリズムはあわてた。政治に必要な即効性の武器がネット社会では変革していた。トランプは時代を先取りした。

 そしてトランプは、「オバマやヒラリーに比べたらプーチンのほうが賢い。馬が合いそうだ」と強烈なメッセージを発信した。

 トランプの中国に対する強硬姿勢には変化がなかった。

 対中問題でタフな発言の数々をフォローすると、トランプの情報と分析の源泉はナヴァロに行き着くのである。

 ナヴァロは前掲書において、まず、中国の軍事戦略を緻密に検証して、「中国は、ソ連とはまったく異なるタイプの軍事的競合国である」「このままでは、アメリカは中国に(少なくともアジア地域で)『降参』と言わざるを得なくなるかもしれない」という危機感を表明する。

 最大の脅威とは核戦力や、ミサイルの数や、艦船、空母の員数や能力ではなく、ハッカー攻撃力である。

「平和にとっては不都合なことに、中国ほどアグレッシブにサイバー戦争能力の増強を図ってきた国はない。また、平和で貿易の盛んな時代にあって、中国ほど積極的にサイバー戦争能力(の少なくとも一部)を展開してきた国も他にない」(ナヴァロ前掲書)

 ロシアのハッカー能力より中国がサイバー攻撃で勝っているのに、オバマはなぜロシアだけを問題にしたのかが問題だと示唆している。

 中国にはアルバイトを含めて200万人のサイバー部隊がいる。

「最も悪名高いサイバー部隊はおそらく、上海・浦東地区にある一二階建てのビルを拠点とするAPT1部隊だろう。APTとはアドバンスド・パーシステント・スレット(高度で執拗な脅威)の略語で、コンピュータ・ネットワークを長期間攻撃することを意味する(中略)。中国人ハッカー達がこうした産業戦線で盗もうとしているのは、大小の外国企業の設計図や研究・開発の成果、特許製法といったおきまりのものだけではない。彼等は電子メールから契約リスト、検査結果、価格設定情報、組合規約に至るまでありとあらゆるものを傍受している」

 そのうえ中国のサイバー部隊には第3の戦線が存在している事実を、ナヴァロは指摘している。

「配電網、浄水場、航空管制、地下鉄システム、電気通信など、敵国の重要なインフラへの攻撃である。これには、民衆を混乱させるとともに経済を壊滅させるという二つの目的がある」(以上、ナヴァロ前掲書)

 ともかくアメリカは「中国製品を買うたびに中国の軍事力増強に手を貸している」というあたり、まるでトランプのツイッターから放たれたメッセージと読める。

いったい何をしでかすかわからないのが中国人の特性であり、信頼関係、友情などという人間社会の最低限度のモラルはいつでも破棄される。GDPのごまかしとか、外貨準備の偽装など、中国人にとっては日常茶飯の身の処し方からすれば歯牙にもかけない些細な行為でしかない。

 これらの所論がトランプのツイッターのメッセージと重なる。