木村三浩(「一水会」代表)

 フランス大統領選挙は5月7日に決選投票が行われ、エマニュエル・マクロン氏が1900万票(得票率66.06%)を獲得し勝利した。一方、マリーヌ・ルペン女史は1100万票(得票率33.94%)余りの支持を受けたが敗北となった。白票はおよそ300万票。無効票とあわせて史上最多の約11%に上り、どちらも支持しない有権者の反発が示された。

 4月23日に行われた一回目の投票において、マリーヌ氏が決選投票に勝ち進んだことで、今回、彼女を当選させまいとする強硬な「包囲網」が張りめぐらされた。反国民戦線ネットワークだ。これを突破できなかったことは、マリーヌ氏を通して今日のフランスの現状を変革しようとしてきた人々にとって、非常に残念な結果だったに違いない。

 しかし、負け惜しみかもしれないが、マリーヌ氏が善戦し1100万以上の票数を獲得したことはある意味で、広範な国民の支持を受けたという証左でもある。それは、第一回投票で760万票を獲得し、決選投票では400万票弱を積み重ねたということについても言える。これまで国民戦線が獲得した票は、2014年欧州議会選挙の470万票(25%)、15年地域圏議会選第一回投票の600万票(28%)、前途の第一回投票の760万票から1100万票と大幅に増えた。

 今後は来月に行われる国民議会選挙でどれだけ議席を獲得できるかが焦点となろう。議会選挙も決選投票を行う二回方式であり、強固な包囲網が形成されると思われる。

フランス大統領選で敗北宣言し、支持者にあいさつするルペン氏(中央)=5月7日、パリ
フランス大統領選で敗北宣言し、支持者にあいさつするルペン氏(中央)=5月7日、パリ
 これまで多くのメディアは、フランス国民戦線(FN)を『極右』『排斥主義』と批判的に報じてきた。しかし、今回の大統領選でマリーヌ・ルペン女史が躍進した理由を考えると、報道を超えるフランス社会の現状が浮き彫りになっていることが分かる。私が考察するマリーヌ氏躍進の理由は以下3つだ。

 第一に、国民のEU(欧州連合)に対する反発だ。統一国家、統一市場を理念とするEUでは欧州諸国に限り国境検査を撤廃するシェンゲン協定が結ばれ、加盟国に適用された。EUができたことでフランス国内の主権が損なわれていると感じている人が増えたことに加え、統一通貨「ユーロ」により多国籍企業が国内市場を席巻し、国内資本が衰えてしまった。農業でも何でもEUの基準が押しつけられ、それまでのやり方が通用しなくなった結果、多くの人たちが職を奪われる結果となった。

 第二に、移民・難民問題だ。これもEUの定に沿う形で、義務的な受け入れ人数を割り当てられるが、移民の多くは出身国の文化や伝統をそのまま持ち込んでくるため、街の風景が昔とは一変してしまうことがある。国民戦線は「移民排斥」を主張していると誤解されているが、ルペン氏は「(受け入れ人数枠を)せいぜい1万人程度にしてほしい」と言っているにすぎないのである。

 第三は、頻発するテロ。私がフランスを訪問した今年2月にもルーブル美術館でテロが起き、警備のフランス兵がエジプト系の男に刺された。つい先日も、ニースでトラックによるテロが起き約300人が死傷したほか、一昨年には雑誌社シャルリー・エブドがISに攻撃される事件が起きている。人々の安心、安全を確保することの優先順位が高まっているのだ。マリーヌ氏は当初から、職業の確保、移民制限、治安強化、そしてフランスの良き伝統を守ることを主要な政策に掲げていた。また、国民戦線の党首となる以前から「国民国家とは何か」「アイデンティティーとは何か」、そして「フランスとは何か」と地道に訴え続けており、それが人々に広く共感されているのである。フランスのみならず欧州諸国ではEUの政策に対する不満が高まり、近年「反EU」を政治政策に掲げる政党が支持を伸ばしている。