中岡望(東洋英和女学院大客員教授、ジャーナリスト)


 フランス大統領選は事前の世論調査通り、エマニュエル・マクロン氏が勝利した。今回の大統領選挙は政策的・思想的には「グローバリズム」と「ポピュリズム」の戦いであった。マクロン氏の勝利でグローバリズムの勝利に終わり、フランスのEU離脱といった事態は避けられる。大幅な国内政策転換も期待できない。フランス国民は現状維持を選んだ。

 だが、フランスが抱えている問題が終わったわけではない。むしろ、フランスの将来の混迷は避けられないだろう。敗北したマリーヌ・ルペン氏の得票率は37%を超えている。白票が10%近くあったこと、マクロン氏に投票した有権者が必ずしも積極的に同氏を支持したとは思われないことを考慮すると、ルペン氏の健闘ぶりが目立つ。

 言い換えれば、マクロン氏の勝利は盤石なものではない。と同時に限界的な政党であったルペン氏が率いる国民戦線は他の伝統的な政党を抑え、政治の主流に位置することになり、政府に対してポピュリスト的な政治課題を突き付けることになるだろう。

 2016年5月のオーストリアの大統領選で極右の自由党党首、ホーファー氏の敗北に続くフランスのルペン氏の敗北で、欧州大陸ではポピュリスト政権の誕生は実現しなかった。しかし、ホーファー氏の得票率は49%で、惜敗であった。ルペン氏の得票率も選挙ごとに着実に増えている。
大統領選に敗れ、会見するホーファー氏=2016年12月、ウィーン(AP)
大統領選に敗れ、会見するホーファー氏=2016年12月、ウィーン(AP)
 12年の大統領選のルペン氏の得票率(第一回投票)は17.9%で3位に留まった。1位はオランド氏で、得票率は28.6%であった。今回の大統領選挙の一回目の投票の得票率はルペン氏が21%で2位に付けた。1位はマクロン氏で24%であった。その差は3ポイントに過ぎない。3位、4位の候補がマクロン氏を支持したことで同氏が勝利を得たが、ルペン氏の得票率も16ポイントも増えている。

 この結果を見れば、マクロン氏の勝利というよりも、ルペン氏の健闘ぶりが目立ったと言っても過言ではないだろう。国民戦線の主張が国民の間で一定程度の支持を得ていることが明らかになった。

 では、何がフランスに起こっているのだろうか。世界的にネオリベラリズム(新自由主義)に基づくグローバリズムに対する逆流が起こっている。アメリカではポピュリズムを主張するトランプ政権が誕生し、イギリスはEU脱退を求める孤立主義が勝利している。こうしたポピュリズムの潮流は決して一時的なものではない。アメリカではトランプ氏の登場でポピュリズムが急に注目されるようになった。アメリカのポピュリズムは、既存の民主党と共和党から疎外されていた白人労働者がトランプ氏という代弁者を見つけることで表面化した。

 だが、欧州では数十年にわたってグローバリズムに反対する動きがみられた。トランプ大統領は「アメリカ・ファースト」政策を掲げているが、オーストリアの自由党は1992年に「オーストリア・ファースト」政策を打ち出している。ポピュリスト的な政策を掲げる政党は早い時点から欧州各国に存在している。