岡崎研究所

 フィナンシャルタイムズ紙コラムニストのデヴィッド・ピリングが、10月15日付同紙にて、円安は、日本にとってメリットもデメリットもあるが、デメリットに気をとられ過ぎて、アベノミクスの柱である円安政策を放棄して、アベノミクスを損なうべきではない、と指摘しています。

 すなわち、弱い円は、安倍総理のリフレ政策の重要な柱である。大規模な金融緩和の推進は、円をドルに対して26%下落させ、輸入価格が上昇し、消費者物価を日銀の2%のインフレターゲットに向けて押し上げるのに役立った。しかし、弱い円は、日本にとって、もはや、良いことだけではないかもしれない。

 それには、いくつかの理由がある。一つは、48基の原発全てが停止した結果、はるかに多くの、石油、LNGを輸入するようになり、弱い円が、貿易収支を悪化させている。対外投資からの多くの収益があるが、最近では、拡大する貿易赤字を相殺するには十分ではない。

 もう一つの理由は、日本はもはや輸出経済ではない点である。日本の輸出は、GDPの15%に過ぎない。

 安倍総理は、明らかに、弱い円の利点について再考している。6年ぶりに1ドル110円台に下落した時、安倍総理は、円の下落には良い面と悪い面があると述べた。黒田日銀総裁は、釈明のため、国会に招致された。政府と日銀の亀裂の徴候は、アベノミクスへの信認を弱めかねない。もう一段の量的・質的緩和をためらうようなことがあれば、インフレ期待の定着に失敗し、リフレ政策全体が挫折し得る。

 弱い円はメリットだけではないという安倍総理の認識は正しいが、今ふらつくことは、災厄である。持続的な物価上昇は、アベノミクスの中心眼目である。デフレに戻ることは、それを全て捨て去ることになる。好むと好まざるとに関わらず、弱い円は、アベノミクスの一部である、と述べています。


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 アベノミクスについては、近隣窮乏化政策である、通貨操作である、といった批判もありますが、円安それ自体を目的としているというよりは、金融緩和が主眼であり、円安はその結果として起こっていると捉える方が正確でしょう。最近は、ピリングが言うように、円安のデメリットが指摘されています。円安によって輸出数量が伸び、国内生産が増加し、経済の拡大に貢献することが期待されていたにもかかわらず、円安でも輸出数量が伸びず、期待された経済効果が見られず、他方、円安で輸入物価が上昇し、購買力の低下につながっている、という指摘です。

円安にもかかわらず、何故輸出が伸びないかについては、一例として、以前は輸出を引っ張っていた電気セクターが国内の生産能力を大幅に減らすとともに、輸出の中心である自動車同様、生産拠点を大幅に海外に移転し、国内の供給体制が制約されていることがあります。

 以前のように円安が輸出増をもたらすためには、製造業が設備投資を増やし、生産能力を増やしたり、輸出の新しい担い手が出てきたりする必要があります。これこそが、アベノミクスの第3の矢である構造改革の課題です。他方、円安は輸入物価高をもたらし、給与が増えない限り、実質所得減をもたらすのは当然であり、安倍政権は賃上げを重視しています。

 つまり、アベノミクスには円安のデメリット対策が含まれているのであって、円安のメリットがデメリットを上回るよう、これらの対策が着実に実施されることが期待されます。ただ、円安のデメリットへの対策の中でも、構造的要因に対しては、長期的な対策とならざるを得ません。しかし、LNGや石油の輸入増と円安が相まって物価上昇をもたらしている点は、原発を再稼働すれば回避し得ることです。アベノミクスの成否は、原発の迅速な再稼働が出来るかどうかにもかかっていると言ってよいでしょう。