加谷珪一(経済評論家)

 韓国大統領選は事前の予想通り、「共に民主党」の文在寅(ムン・ジェイン)氏が当選した。文氏は盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領の側近だった人物であり、盧氏と同じく人権派弁護士出身である。文氏の経歴などを考えると、文氏の政権運営は、盧武鉉時代の再来となる可能性が高い。本稿では主に経済面に焦点を当て、文政権の政策と日本への影響について考えてみたい。

 今回の大統領選は、文氏と野党第二党である「国民の党」の安哲秀(アン・チョルス)氏による事実上の一騎打ちとなった。実はこの2人は、朴槿恵(パク・クネ)前大統領が当選した前回(2012年)の大統領選でも熾烈な争いを演じている。両氏は野党候補として立候補を表名したが、候補者一本化のため、安氏が出馬を断念した。

 安氏はIT起業家として成功した人物で、政治不信が著しいといわれる若年層からの支持が厚いとされてきた。出馬を表明してから支持率が急上昇したものの、結局は息切れし、文氏にリードを許す結果となった。現代の若者の意識を体現しているであろう安氏が2度にわたって勝利できなかったという事実は、韓国社会を理解する上での重要なポイントとなる。

 よく知られているように韓国経済は財閥とその関連企業に大きく依存している。中でも携帯電話など電子機器で圧倒的なシェアを持つサムスン電子の存在感は極めて大きい。サムスン電子の2016年12月期の売上高は約202兆ウォンであり、同社が生み出した付加価値は約82兆ウォンに達する。同じ年の韓国におけるGDPは1637兆ウォンなので、サムスン1社で全GDPの5%を生み出している計算になる。これに加えて財閥の関係会社や下請け企業が重層的な産業構造を形成しているので、韓国経済に対する財閥の影響力はさらに大きい。

 極論すると現時点では、サムスンの経営が好調であれば韓国経済も成長し、サムスンがダメになれば韓国経済も下降するという図式になっている。リーマンショック後、世界経済の不振が続いたにもかかわらず、韓国が何とか成長を維持できたのはサムスンの競争力のおかげである。
ソウル市ではためく韓国の国旗とサムスングループの旗(ロイター)
ソウル市ではためく韓国の国旗とサムスングループの旗
 だが、経済運営が財閥に依存しているということは、国内のマネー循環も財閥中心になるということを意味している。経済が好調で財閥やその関係会社が潤っても、その恩恵はなかなか全国民にまでは回らない。韓国では格差が常に社会問題となっており、これが時に激しい感情となって政治を左右する。現代的でソフトなイメージを持つ安氏よりも人権派弁護士である文氏が勝つのは、弱者のための政策を国民が強く望んだ結果である。

 では、文氏は反財閥的で左翼的な政権運営に邁進するのかというと、おそらくそうはならないだろう。先ほど筆者は、韓国は格差社会であると書いたが、日本でイメージされているほど韓国の格差は激しくない。

 2016年における韓国の1人あたりのGDP(国内総生産)は約2万8000ドルと、徐々に日本に近づいている(日本は3万9000ドル)。11年における韓国の相対的貧困率(OECD調べ)は14.6%となっており、16.0%である日本よりもむしろ良好だ。

 また、社会の格差を示す指標である「ジニ係数」を見ても、韓国は0.307、日本は0.336とほぼ同レベルとなっている。高額所得者による富の独占についても同様で、所得の上位10%が全体に占める割合は、韓国は21.9%、日本は24.4%とあまり変わっていない。

 韓国は欧州各国と比較すれば、かなりの格差社会ということになるが、日本と比較した場合、それほど大きな差ではないというのが実情である。確かに韓国では格差問題は重要な政治テーマだが、それは財閥という一種の特権階級に対する反発というメンタルな部分が大きい。