列島社会の均質化・同質化に基礎づけられる「江戸の達成」は、明治初年の戊辰戦争(ぼしんせんそう)を、従来の倒幕派=開明的=近代的軍隊と、佐幕派=保守的=封建的軍隊の戦闘ととらえる「西高東低」維新観とは異なる、近代的装備を備えた軍隊同士の戦争と見ることを要請する。戊辰戦争は、同レベルの武器を使って戦われたヨーロッパのクリミア戦争(1853~56、約90万人死傷)や、アメリカの南北戦争(1861~65、約62万人戦病死)に比して、はるかに少ない死傷者(1万3550人)で終わった。

江戸城の桜田巽櫓
江戸城の桜田巽櫓
 明治元年(1868)の大政奉還、同2年の版籍奉還、同4年の廃藩置県、という一連の国家制度改革も、武力抵抗なく平和裡かつ短期間に達成され、明治政府は、倒幕派・佐幕派の「壁」をこえたオールジャパンの官僚制による統治機構を構築した。これは、将軍を代表として、譜代大名や上級旗本など幕府上級官僚が主導する幕藩レジームから、朝廷官僚や藩官僚など中下級官僚を加えた「新政府官僚」主導の維新レジームへの移行が、最小のリスクと犠牲(省エネ、省ロス)のもとで実現されたことを意味する。

 さて、「江戸の達成」としての「明治維新」から150年を迎えようとする今日、世界ではイギリスのEU離脱、トランプ大統領の「アメリカ・ファースト」、各地での保護主義・排他主義の台頭が見られる。国内でも、貧困・格差・差別問題など社会の分断が深刻化し、新たな「壁」が作られつつある。しかし、グローバリズムの影響のもと、地球の一地域から起こる戦争、疫病、環境破壊、経済混乱、サイバー攻撃などは、ただちに全世界へと拡大する。一国のみの「壁」に守られた安全・安定・繁栄は、すでに不可能になっているのである。

 250年の「徳川の平和」の達成として、「幕藩体制」「鎖国体制」という内外の「壁」を、省エネ・低リスク・短期間のもとで取り払い、近代世界の一員となった体験をもつ日本の国家と社会は、今日、さまざまな「壁」を取り払う意義と役割を自覚し、その重要性を世界に発信する必要がある。「明治維新」の今日的意義は、ここにあるといえるのである。